87人が本棚に入れています
本棚に追加
――――
やわらかな風が吹く。幻影水鏡橋の上で彼を待つ。
「美里、お待たせ」
名前を呼ばれて振り返る。ラフなTシャツにジーンズ。いつもの配達中の浩哉の姿。
「遅刻よ、浩哉」
私を見て浩哉が笑ってる。彼の笑顔に嬉しさが込み上げる。
浩哉が倒れた後――
『結婚はできません』
真司にはとても申し訳ない事をした。だけど、正直な想いを話したら理解をしてくれた。
『幸せになれよ、きっと』
本当に大好きだった。迷いなんて無いと思っていたけれど。
『さよなら、美里』
失いたくないと願ったのは―― 浩哉だった。
「……っつ!」
浩哉が顔を歪める。手術後の痛みがまだあるのだろうか。
「大丈夫? 痛むの!?」
顔を覗き込む。脳外科の手術を受けたばかりで私は不安になる。浩哉はゆっくりと顔を上げて穏やかに微笑む。
「美里、おいで」
ちょっと照れた様に。はにかんだ表情をしながら両腕が広がる。
浩哉のあたたかな胸に包まれて、やっと安心ができる。
最初のコメントを投稿しよう!