予感

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 力強く、そして優しい。 「浩哉……?」  そんなにきつく抱き締められたら、浩哉の顔が見えない。 「待たせてごめん。結婚しよう」 耳に響く声に涙が溢れ出す。手術を受けてから数ヶ月、初めて将来を繋ぐ言葉を聞いた。 「術後検査も異常無し。今日、やっと医師からお墨付きを貰えた」 浩哉の言葉が嬉しくて、溢れ出した涙が止まらない。脳に腫瘍があるとされた時、彼は病室のカーテンを開ける事さえ嫌がった。 「美里、返事は?」 声にならない。浩哉の腕の中、何度も頷く。  水面にきらきらと夕日の橙色が映り込む。 「朝焼けも一緒に見ような」 浩哉と肩を並べて川の向こう側を眺める。貴方となら寄り添って歩いて行ける。  光ある道の方へ――    幸せな予感が胸に広がってゆく。  いつか見た、夢の続きを貴方と紡ぎたい―― [完]
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