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予感はずっとあった。穏やかなこの街に、あの人が満足していなかったから。
追いかけたくて追えなかった。母やまだ学生の妹を残して街を出て行く事を私は躊躇った。
最後に真司と会ったのが幻影水鏡橋。
あの日もきらきらと水面が光り、冷たい風が頬を撫でていたっけ。まだそれほど時間は経っていないのに。まるで遠い昔みたいに思える。
消えてしまった私の恋――
浩哉はそんな私を見ていたから、橋の上にじっと立っていると心配するみたい。普段はぶっきらぼうなくせに。時折妙に優しい表情をみせる。
諦めていたはずの私に、その日の夜、思いがけない連絡が入る。
「結婚……?」
『一緒に来て欲しい、美里』
携帯電話を持つ手が震える。別れたはずの真司から、思ってもいなかったプロポーズ。
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