87人が本棚に入れています
本棚に追加
「お願い、少しだけ時間を頂戴」
『あの橋の上で待ってる』
真司のところに行きたい。逢いたくて、ふれたくて、想いが募る。
「母さん、少し出て来るわ」
やわらかな風に吹かれながら幻影水鏡橋の方へ歩く。真司が待っていると思うだけで心が焦り出す。
橋の上はまだ誰の姿も見えない。山を越えて車で向かって来ると言っていた。川の向こう側をずっと眺めていた。
「美里、まだいたのか」
「浩哉…… 配達は終わったの?」
酒屋のエプロンを外した格好で浩哉が歩いて来る。さっきの様な誤解を招かない様に、手摺から身体を離して浩哉と向き合った。
「人と待ち合わせなの」
浩哉の表情が一瞬曇る。上がりかけた手が迷うように宙を掴んでまた下ろされる。
「浩哉……!?」
真っ直ぐに私を見つめる浩哉の瞳が大きく揺れて。手首を掴まれて浩哉の胸に引き寄せられる。
最初のコメントを投稿しよう!