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不意に強く抱き締められて身動きができない。
「行くなよ、美里」
浩哉の顔が私の肩に埋もれる。ぎゅっと背を抱かれて頬の横から聴こえてくる浩哉の声だけが耳に響く。
「行くって…… 浩哉、どうして?」
誰にも話していないのに。真司が此処へ来る事も。
「俺と―― 俺といろよ、ずっと」
抱いた手に力が入る。頬が浩哉の胸にぶつかる。懐かしくて優しい、浩哉の匂い。
「浩哉、放して」
惑う心を浩哉が抱き締める。このまま浩哉と寄り添えたら何も悩まずに済むのに。
浩哉の胸を手の平で押し返す。ゆっくりと身体が離れた時、私の名前を呼ぶ真司の声に、二人で橋の入口を振り返った。
「真司さん……!」
私達の方へ歩いて来る。真新しいスーツ姿で、私がプレゼントをしたネクタイを緩めに締めてる。
「美里、彼は?」
軽く会釈をしながら真司の目が浩哉の方に向く。
「前に話した…… 浩哉よ」
「あぁ、幼馴染みの」
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