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浩哉と真司が挨拶を交わしている。だけど、浩哉がどんな表情をしているのか、怖くて顔を上げられない。
きっと浩哉を傷つけてる。私はまだ、浩哉になんの返事もしてない。
「行こうか、美里。向こうに車を停めてある」
真司に肩を抱かれて歩き出す。振り返ると浩哉と視線が重なり合う。
刹那い瞳で―― 立ち竦む浩哉に胸が傷む。
再会をした真司は、新しい仕事が軌道に乗り始めて、私を迎える準備が整ったと話してくれた。
「何も心配は要らない。あとは美里が来てくれたら」
小さいけれど新居の用意もしたんだと話す。街を出て行く時は、一言だって何も言ってくれなかったのに。
複雑な想いで真司を見つめる。
「不安定なままじゃ、プロポーズできなかった」
眼差しは変わらないのに。真新しいスーツからは私の知らない華やかな甘い匂いが漂う。
逢えて嬉しいはずなのに。不安ばかりが胸に広がっていく。
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