予感

1/12
前へ
/12ページ
次へ
 夕日が水面に映る。幻影水鏡橋から眺める景色はいつもと変わらずに煌めいて見える。  橋の上で川に向かい手を伸ばす。澄んだ空気が心地良くてまぶたを閉じた。 「美里……っ!」 背後から肩を鷲掴みに引っ張られる。驚いて振り返ると幼馴染みの浩哉が。 「なにやってんだよ、危ないだろ」 「向こう側を見ていただけよ」 慌てふためいた様子の浩哉に私の方がびっくり。ここから飛び降りる様にでも見えたのかな。  泡沫の夢―― そうね、消えてしまうのもいいかもしれない。くすりと笑った私に浩哉が眉を寄せて低い声を出す。 「あんまり心配かけるなよ」 掴んでいた手が離れる。ほっとしたように微笑んで、配達途中だからとさっさと背を向ける。  ラフなTシャツにジーンズ。酒屋家業を継いで配達中の浩哉の姿を見送り私も歩き出す。    貴方のいない、この街を。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

87人が本棚に入れています
本棚に追加