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   「九十九ぉ、給料出たんだから奢ってよ」 「冗談だろ? 瑠美ちゃんに奢るくらいなら自分に奢るよ」 「なによ、それー」 「九十九、これ配達してきてくれ。菊一だ」 (謎の粉だ……) 「マスター、この粉ってなに?」 「……聞かない方が身のためだ」 「はいはい…… なんか聞いたセリフ」  バイトの帰り。 「遅くなっちまった…… なってしまった。抜け道行くか」 周りは野っ原だし、建物なんてほとんど無い。あんまり通りたくない寂しい道。どっからなにかが湧いて来てもおかしくない。  慎重に、慎重に運転する。猫とか轢きたくねぇし。そう言えば今夜のあの男、ちょっとイケてたな…… また来たら粉かけてみるか。 「うわぁああっ‼‼」  慌てて車の外に飛び出した、何かが…… あれ? 車の前も後ろも横も、ついでに上も見上げた。 「なんだ……? 何も無いじゃん……」  どうしたんだ? 何も無いのに。なんで…… 俺は泣いてるんだろう…… こんなに寂しいんだろう。誰かに抱きしめてもらいたい。強くぎゅっと思いっ切り。でも…… 俺は独りだ……  「なにやってんだろ、俺。誰もいるはずないじゃないか。ずっと独りなんだし」  どうやら今日の俺は感傷的ってやつになってるらしい。いろんなことを思い浮かべた。 (独り? 違うよな、だって助けてくれる人がいる。だから生きてこれたんだ……)  寒いのに野っ原に転がってみた。見上げる空がきれいだ。周りに枯れかけちゃいるけど草が生えてる。これだって生命だ。 (そうか…… 独りになるってそう簡単になれるもんじゃないよな。独りだって思うことができるだけだ)  どこかから言葉が漂ってくる。 『「大切」って言う言葉が、なにかを失くすたびに大きくなる』 『九十九、僕は離れ』  時々夢ん中に出てくる中途半端な言葉。どこで聞いたんだろう、夢だから考える必要ないのかもしれない。でもその言葉だけが鮮明に残っている。 「なんなんだろうなぁ。俺、どうかしちまったか?」  それでも溢れ出す涙を、どうやって止めたらいいのか分からなかった。  ――「九十九と八九百と十八」完 ――     
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