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「さあ。何から話すかな。
あ、一つだけ先に言っておこう。俺が一生を共にするのはキミだ。それだけは断言できる。
キミもまだ俺のことを想ってくれていると言う大前提があれば、だけどね?」
そう前置きして、彼は話し始めた。
私はその言葉を発する彼もまたその言葉も幻のように想えて、何度も自分の中で反芻してみる。
いよいよ幻覚まで見るようになってしまったのか、はたまた夢と現実の境がわからなくなってしまったのか、とか考えてみたり。
そんな私の反応さえ愉しむように、彼は続けた。
「そうだ。何軒か家を探してみた。良くなったら内見に行かないか?家族も増えたし、あの部屋では少し手狭になるだろう?」
何を言っているのか?さっぱり理解できない。
あなたと暮らせないことはわかりきっていることなのに、それなのにこれから家族のように暮らすみたいなことを言って。
やはり夢の中なのかしら。
「あ、ごめん。
ちゃんと話さなければいけないね。
葵が会った女性のことを話す。
でも勘違いしないでくれ、あの女性とはもうとっくに関係は終わってる。
葵のことを想うようになってから、一度もそう言う関係はない。
彼女が言ったことは虚言だ。俺を自分のモノにできないことに腹を立って、あんな虚構…」
そう言いながら目頭に指先を当てる。呆れた時にする仕草だ
貴史からそれらしいことを聞いた。詳しいことは解らなかったが、美優から何となくここにいる経緯を聞いたらしい。
それで心当たりのある女を調べてみたら、あの女がヒットした。
何度も連絡が来てていい加減面倒くさかったんだ。でも、彼女の父親の力に頼っていたところもあって、むげにはできないところもあった。
ただ、信じて欲しい、そう言う関係はもうとっくに終わってる。過去の事だ。
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