赤が沈むのと同じくらいに

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1年前、僕は彼女に言った。 “僕はあなたのことが好きです” 困ったように、彼女は言った。 “未成年に手を出せるわけないでしょ” ーーあの頃、僕は19歳で。 ーーあの頃、彼女は25歳で。 僕は年齢というものを酷く恨めしく思った。 ちらりと、左手首の時計に視線を向ける。沈みかけた赤が文字盤に反射してキラリと光った。 「あと、1分です」 「……え、なにが?」 栗色の髪を柔らかく揺らしながら、彼女の瞳が僕を見つめる。困惑したようなその表情に、大好きな人を困らせている自分があまりにもガキで、彼女に言われたあの言葉に縛られていた自分が本当に幼稚で、それでも僅かに希望があるなら縋りたいなんて、どこまで女々しいんだろう。 あなたを手に入れられる希望があるなら みっともなく、足掻いてみたい。 ゆっくりと、彼女に近づいた。僕の目の前で揺れる瞳に今は僕だけが映っているのが嬉しくて。 先生と呼ぶことに距離を感じていた。 子供扱いされるのが死ぬほど嫌だった。 あなたから他の男の話を聞くのが気に入らなかった。 大人じゃない自分に腹が立った。 “未成年だから”そんな理由であの日突き放されたのが何よりもムカついた。 再び僕は左手首に視線を向ける。秒針が12を過ぎた。夕日は消え入りながらも未だ僕らの顔を赤に染める。 僕は彼女の右手を引き寄せて、華奢な体をきつく抱きしめた。 「ちょ、ちょっと、急にどうしたの」 「……」 困惑した甘い声音が僕の鼓膜を叩く。 困らせたいわけじゃないんだ。 嫌われたいわけじゃないんだ。 あなたに近づきたくて、 あなたに僕も男だと認めてほしくて、 ただ、好きになってほしいだけで、
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