赤が沈むのと同じくらいに

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赤が沈むのと同じくらいに

ーーあの赤が沈むのと、多分同じくらいの時間。 ーーその時が来たら僕とあなたは……。 *** 「こんなところに呼び出して、どうしたの?」 小さな橋の上。大きなアーモンド型の目を垂らし、口角を上げてゆるりと優しく笑った彼女は少し高めの甘い声音を空気に溶かした。 都会には些か似つかわしくない川が流れる町の片隅。 冷んやりと頬を撫ぜる風が冷たく感じる9月の夕暮れ時。 夕日が彼女の顔を赤に染める。そんなはずないのに、その表情がまるで照れているように見えて僕の胸を悪戯に擽ぐった。 「覚えてますか?1年前、僕がここであなたに告白したこと」 「覚えてるよ。初めて若い子に告白されて嬉しかったから」 「若いって、僕とそんなに変わらないじゃんか」 にこりと作り物のような笑顔を貼り付けた彼女は僕をからかうように言ったあと眉尻を下げて「6歳差は大きいよ」と消え入りそうな声音で呟いた。 ーー彼女は、僕の家庭教師で。僕より6歳年上で。 ーーどうしようもなく好きになった人。 夕日に照らされた川がキラキラと光を反射させて光る。確か、去年僕が彼女にここで思いを伝えた時もこの川はキラキラと輝いていたっけ。 天然のイルミネーションに照らされた僕たちの関係は、1年前から、あの頃から何も変わっていない。 ーー教師と生徒。 ーー年上と年下。 ーー成人と未成年。 秋風が僕たちの間を通り過ぎていく。遠くで電車の走る音が聞こえた。代わり映えのしない毎日の中で、僕の気持ちも未だ変わらなくて。 「僕は今でも好きですよ、あなたのこと」 「ありがとう。でもそれは家庭教師の先生としてで」 「違います、僕はひとりの男として、あなたをひとりの女性として今でも変わらず好きなんです」
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