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第三話 協力
「待たせてしまい、すまなかった」
近衛兵に案内されて再び謁見の間に戻った俺達。
最初ここに呼ばれた時は色んな動物の奴らがいたが今はえるふと国王らしき老犬、後は腰に剣を差した数名の犬人兵士だけだ。
話合って出した結論だが、当面はこの国に協力しつつ色々な情報を集めた上でどう動くかをまた皆で話し合う事になった。
東郷の謝罪に、えるふが首を横に振って恭しくお辞儀をする。
「いえ、救世主様もこちらに来たばかりで色々と迷われる事もありましょう」
「お心遣い痛み入る。八人で意見をまとめた結果だが、この国に協力させてもらおうと思う」
「おぉ……」
えるふの顔に安心と期待の色が浮かぶ。
「それでは早速国王陛下の御前に…」
色よい返答を聞いて肩の荷が下りたのか、えるふの足取りは心なしか軽いように見える。
俺達を奥の玉座に座っている老いた犬人の前まで連れていくと、自分は国王の隣まで移動してこちらへ振り返った。
「ご挨拶が遅くなりました。私はこの亜人の国、ガルトウルム王国の国務を任されております、宰相のリオン=リーベルンと申します」
「亜人?」
リオンの言葉に夏目が疑問の声をあげる。
「亜人というのは、人間に似た姿ではあるが体の一部または全身に動物の特徴が見られる人種の事を言います」
「なるほどねぇ」
「すると、今の我々は北山さん以外は全員亜人という事か…」
東郷が北山を一瞥してから呟きを漏らしたが、それを聞いたリオンはかぶりを振った。
「いえ……、皆様全員亜人です」
「え、そうなんか?」
北山がリオンの言葉を受けて口を開く。
「ただの背が低い人間じゃと思っとったわ」
「あなた様はドワーフと言う洞穴に住む種族です。人間とは異なる種族ですね」
「ほぉー……。そうなんじゃのぉ」
北山、自分の正体が分かって良かったなぁ…。
貴賓室で自分の事が気になってたもんなぁ。
リオンが申し訳なさそうな顔で俺達に深々と頭を下げた。
「申し訳ありません、本来であればここにおわしますガルトウルム国王陛下からお言葉があるのですが……陛下はご高齢で大病を患っておられまして話すこともままならぬ状態でございまして…」
「高齢で大病を患ってるのに座らせるのは良くねぇだろう」
俺はつい、思った事を口にしてしまった。
「陛下にご無理をさせているのは重々承知なのです…。本来この度の救世主様召喚の儀において、居て頂くべきであった陛下のご子息……トルビス王子が行方不明という事態でして…。我が国の方からお呼びしたにも関わらず国の長がいないとなれば皆様を軽んじているとも取られかねないと思い急遽陛下にお座り頂いた次第でございます…」
「貴国の事情は分かりました。なのでリオン殿、一刻も早く陛下を休ませて上げて頂きたい」
「救世主様の寛大なお言葉、有り難く……」
東郷の言葉を聞いたリオンが深々と頭を下げ、近衛兵数名に国王を寝所に連れていくように指示を出した。
「今の話からすると、アタシらは国王の大病を治すとか行方不明の王子を探すために呼ばれたのかい?」
国王が謁見の間からいなくなった後、夏目がリオンに召喚の理由を尋ねた。
国王が大病で王子が行方不明なら最初にリオンが言ってた国家滅亡の危機にもなる気がしなくもねぇが…。
「いえ…それはそれで国の一大事ではあるのですが、お越しいただいた真の理由が他にありまして……」
「なんなんだい?」
夏目が早く聞きたいらしく答えを急かす。
「実はこの国は、他国からの侵略を受けつつあります」
「…国家間の戦争か」
東郷の言葉に、リオンが頷く。
「せ、戦争……」
「………」
戦争と聞き、青ざめる佐野と佐藤。
西海だけは表情一つ変えちゃいなかったが、他の奴らも苦虫を噛み潰したような顔をしてる。
多分俺も似たような顔になっているんだろうが無理もない。
俺らは過去に戦争を経験している。
それも小さくて物量も乏しい島国が全く真逆の大国に戦争を仕掛けるような悲惨な戦争を、だ。
「そして、敵国に内通している領地もあるとの噂が流れており…国内でも何ヵ所かで武力衝突が見られておりまして……」
「はぁ? 敵が攻めてくるってぇのに仲間割れかよ!」
「事態の収拾と沈静化には努めておりますが……」
呆れたもんだ。
他国との戦争もだが、自国内でも争っているとはな。
はっきり言って最悪な状況だ。
こりゃあ下手したら敗戦はもちろん、本当に滅亡しちまうな。
さてさて東郷さんよ、アンタはどうすんのかね?
お手並拝見といきますか。
「情報の精度が低いな。この世界の地図とこの国の兵力や武具、戦術や戦略、戦争形態を知りたい」
「わ、分かりました。しばらくお待ちを…」
リオンが扉の向こうにいた兵士に声をかけ、何かを持って来るように手配する。
兵士が慌てて走っていくのを確認してから、再びリオンが戻ってきた。
「ご説明をさせて頂く為の資料が揃うまでしばらく時間がかかるかと思いますので、先に皆様の適性をお教え頂いても宜しいでしょうか…?」
「適性…とは?」
さすがの東郷にも、それが何を意味するのか分からずにそのままの言葉をリオンに聞き返す。
「この世界には個人個人に適性がありまして、その適性によって得意な技術や使える魔法があるのです」
そう言って、丸められて紐で縛られた古くさい紙を複数取り出す。
魔法? 本当に御伽噺みてぇだな。
「どうぞ、一人一つお取り下さい」
「へぇ、面白そうだねぇ。どれを取っても同じかい?」
興味津々に夏目がリオンに一番に近寄っていく。
「ええ。このスクロール自体は個々のステータスを見るための魔法具なのでどれも同じです」
「ふぅん。ほんじゃ貰うよ」
物怖じせずに紙の巻物をひょいと掴む夏目に続いて、皆が順番に一つずつ受け取っていく。
「なんじゃかおみくじみたいで楽しみじゃの」
北山がワクワクしながら笑みを浮かべて紐をほどく。
そんないいもんかねぇ。
「うわっっ! なんだいこりゃあ!」
声を上げたのは一番に紐をほどいた夏目だった。
夏目の目の前…開いた紙の巻物の上に白く光る文字が浮かび上がっているじゃねえか。
文字は…何じゃありゃあ。日本語じゃねえぞ?
なんつぅか、ミミズがのたうち回っているようなぐねぐねした文字だ。
だが驚いた事に、書いてある文字の意味は分かる。
気味が悪ぃ。
ええと、内容は……
名前 : 夏目 静子
種族 : 虎人
属性 : 火・水
適性 : 整備士
技能 : 整備・改造
みてぇだな。
「なぁーんか、意味はあんまり分かんないけど整備士みたいだぁね」
「メカニック…ですか。初めて耳にする適性ですね…」
手に持った紙に、浮かび上がった文字のメモを取るリオン。
「まぁ、車とか機械とかの調子を見て、修理する仕事だねぇ」
「クルマ? キカイ? 初めて耳にします…」
「そうかい? うーん、アタシは説明が上手くないからねぇ…」
リオンと夏目のやりとりを余所に、他の奴らも次々と紙の巻物を開いていく。
他の奴らはこんな感じだった。
名前 : 北山 虎鉄
種族 : ドワーフ
属性 : 火
適性 : 鍛冶屋
技能 : 武具製造・修理
名前 : 西海 仁
種族 : 狐人
属性 : 水
適性 : 医師
技能 : 治癒・把握
名前 : 冬木 源一郎
種族 : エルフ
属性 : 風・地
適性 : 教授
技能 : 知恵・魔法付与
名前 : 佐野 あき
種族 : 兎人
属性 : 風
適性 : 商人
技能 : 鑑定・交渉
名前 : 佐藤 はる
種族 : 猫人
属性 : 地
適性 : 農家
技能 : 植物栽培・地質調査
名前 : 東郷 兵衛
種族 : 狼人
属性 : 水・風
適性 : 海軍
技能 : 船舶創造・機雷創造
名前 : 南部 幸次
種族 : 犬人
属性 : 地・火
適性 : 陸軍
技能 : 塹壕創造・大砲創造
俺と東郷はどうやら軍人みてぇだが、元々いた世界の職業が影響してるんだろうか?
しかし大砲創造とかよ、技能が穏やかじゃねぇな。
「ふむ、ふむ。皆様の適性は概ね分かるものばかりでしたが、カイグンとリクグンとは?」
「私と南部はそれぞれ海上で戦う職業と陸地で戦う職業と思ってくれて構わない」
「おお! 兵士の適性でございましたか!!」
嬉々としてリオンの目が輝く。
「これで敵国恐るるに足らずです!!」
「おいおい待ってくれよ! 協力はすると言ったが最前線でドンパチ戦争する気はねぇよ」
俺の言葉に東郷も頷く。
「それに関しては南部の言う通りだ。協力はするがあくまで知恵的な所で協力をし、ここにいる八人を一兵卒として戦線に参加させるのはご遠慮願いたい」
やや怒気をはらんだ東郷の言葉にリオンが慌てて何度も頷く。
「もちろんそのつもりではございます! ただ…事態が事態なので戦場後方本陣にて将軍付きの司令官としてお知恵を頂ければと思います。」
「うむ。それならば海軍と陸軍に適性がある二人が力を貸そう。構わんかね?陸軍殿」
畜生。俺まで巻き込みやがったこいつ。
だがここで俺だけ断るのも俺だけがビビっちまってるように思われて癪だ。
「いいぜ。海での戦いの時は期待しとくぜ、海軍殿」
と最大限の皮肉を込めて返事してやった。
「善処しよう」
そんなことを言い合っていると謁見の間の扉が開き、複数の兵士達が資料を抱えて入室してきた。
さて、いよいよこの世界の事が分かるチャンスが来たってとこか。
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