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仕事が終わり、自宅に戻ってきた詩織は、疲れた様子でカーペットの上に座り込み、テーブルに乗り掛かる
(今から色々しないといけないのに……)
仕事終わりで疲れ果ててなかなか動いてくれない身体になんとか鞭を打ち、洗面台に向かった詩織は、うがい等を済ませるとそのまま顔を濡らす
(大丈夫、少しぐらい自分に自信持っても)
舞子から言われた言葉が休憩が終わってからもまるでしこりのように残り、上手く笑えずに何度か怒られそうになった。
(なんであんなこといきなり言ってきたんだろう)
ワンルームの部屋に戻ってきた詩織は、休憩室での出来事を思い出しながら、持っていたビニール袋に入れられた雑誌を手に取る
雑誌を袋から取り出すと表紙になっている淳史の姿が目に入り、おもわず表紙を見つめた。
(あの時とはやっぱりイメージが違う)
喫茶店で交わした時に感じた淳史のイメージとまるで違うのに凄いなと感嘆していると表紙にプライベートについて語っていると記されているのに気づく
いつもなら気にならないはずだった詩織は、何故か気になり、カーペットにまた座り込むとページを捲った。
捲ったページには淳史のインタビューが載せられていて、書かれている内容と喫茶店で会ったときの姿が重なる
(本当にあのままの人なんだ……)
そう思っているとある一文に目が止まる
──最近本当に親切な人のおかげで落としてしまった物が戻ってきたんです。
──そんな事が? ちなみにその落としてしまった物は大事な物で?
──はい。僕、今でもたまに現場とかの移動で電車を使う事があるんですけど、その時に使ってる定期券を……でも交番に届けられて、その交番のお巡りさんから連絡がついさっきありました。
──それは無事に見つかって良かったですね。でもまさかこんなリアルタイムでそんな事があるとは
──本当にそう思います。今度拾ってくれた人にちゃんとお礼を言わないといけないなって思います。
──無事にその方に会えると良いですね。でも拾ってくれた方ももしお礼だって副島さんが現れたら驚かれるでしょうね
──どうでしょうね。でもそれで少しでも恩を返せるなら構いませんかね
(これ絶対あの時の事だよね……)
雑誌のインタビュー記事を読んだ詩織は、喫茶店での出来事をもう一度思い出す
(そういえば、私がすごく気遣っていたら嬉しそうにしてたな……)
そんな事を思いながら、テーブルの上に置きっぱなしにしていた喫茶店の紙ナプキンを手に取る
──あっ、すみませんいきなり、でもなんか話してたらすごく楽しくて
──ほとんど話してませんけど……
──それが俺にはちょうど良くて、また連絡しても良いですか? もちろん無理にとは言いませんが、出来るならただの副島 淳史として、お友達として
あの時は気づかなかったがただの副島 淳史としてと強調するような話し方に本当に友達として誰かと話したいと思ってくれたのかと気がつく
「……私なんか何もないのに」
紙ナプキンに書かれたIDアドレスを眺めながら呟いた詩織は、おもむろにスマホを手に取った。
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