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それから数日後
定期券を拾ったことも忘れようとしていたある日、ふと休憩中にスマホを見れば、見知らぬ番号から着信が入っていることに気付いて、留守番電話を聞いてみるとこの前の交番からで定期券の持ち主が現れたことと直接会ってお礼がしたいと言っている事が録音されていた。
仕事終わりに交番の番号に掛け直すとすぐに事情を話されて、持ち主の方の電話番号を伝えられた。
電話を切り、電話番号をメモした紙を見つめる
(私から連絡しても良いものか……)
そんなことを思っているとメモした番号から着信が来て、慌てて電話に出ると若い男性からの電話だった。
「……もしもし」
「あの、もしかして相沢 詩織さん、ですか?」
「そうですけど……」
電話口で定期券を落としてしまって困っていたが、交番から定期券が見つかったという連絡が来て、それも拾ってくれた人がいると聞き、どうしても直接お礼がしたいという申し出だった。
「もう、十分です。元々お礼して頂くためにしたわけじゃないので……」
丁重にお断りをして、電話を切ろうとしたが慌てた様子で一回だけで良いので、直接お礼を言わせてください。と懇願されると断れる状況ではなくなってしまい、渋々承諾する
明日なら時間があると言われ、ちょうど仕事も休みだった私は、待ち合わせ場所と時間を告げられて、それで通話は終わった。
「……あまり行きたくないんだけどな」
行きたくない気持ちがため息に溢れて、その日は重い空気を纏った状態でそのまま家路に着いた。
副島 淳史──その時、電話の相手の名前を聞いたとき、どこか聞き覚えがあるような気がしたが、それ以上考えずにその日は終わった。
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