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翌日のこと
約束の時間が近づいてきて、重苦しい空気のまま約束の場所である静かな喫茶店を訪れる
店内にはまだ誰も来店してる感じではなく、ほっと胸を撫で下ろすと店員が寄ってきて、人を待っていまして……と告げると事前に伝えてあったのか一番奥の席に案内された。
席に着くと詩織は眼鏡とマスクをかけ直して、小さなため息を吐きながら約束の時間が来るのを待つ
来店してからどれだけの時間が経ったのか、さっきの店員が目深に帽子を被った一人の男性を連れてくる
それでは、と言い残して去る店員に頭を下げ、詩織の姿を確認するとお待たせしてすみません。と頭を下げてきて、帽子を脱いだとき聞き覚えのある名前の正体が分かった。
「副島 淳史ってあの副島 淳史さん?」
目の前にいたのは、ドラマなどに出ている今話題の俳優の副島 淳史で詩織は、おもわず頭を下げる
「撮影が長引いてしまって……」
「い、いえ、私も少し早く来すぎたもので……」
詩織は、目の前にいる淳史こそキラキラした世界で生きる。まさしく恋愛漫画に出てくる主人公のような人だと思った。
さらに詩織は、マスク越しに驚きを隠せずにいるとあの、と遠慮がちに話し掛けられる
(まさかテレビで観ない日はないというほど人気のある人が目の前にいるなんて……)
でも、周りに気付かれる事なんて望んでないだろうし、とマスクをしたまま表情を隠してたまま、あまり目を合わせまいと少し俯きがちに頭を下げた。
「無理にお誘いしてすみません。でもどうしても直接お礼が言いたくて」
「……いえ、それよりも電車乗られるんですね」
俯いたままそう話し掛けると現場が近かったりしたら電車で行くようにしてて、と照れ臭そうに笑って、幻滅しました?と聞き返してきた。
「そんなっ、ちょっと安心しただけです」
(そういう庶民的な所もあるんだなって実感して)
本人の前でそんな事言えるはずもなく、何度も首を横に振りながら、こちらこそお忙しいのにわざわざすみません。と頭を下げるとそんなっ頭を上げてください。と促される
「……あまり長居したら大変だと思うので、私はこれで失礼し──」
「……もう少しだけ時間あるので」
帰ろうとするのを遮られた詩織は、これ以上一緒にいない方が良いという気持ちだけが大きくなっていく
「……でも、私なんかと一緒にいる所万が一見られたら色々大変になると……」
「俺がお礼したいだけなんで」
はっきりと言われると言い返すことも出来ず、上げ掛けていた腰を戻して、マスクをしたまま一瞬だけ淳史の方に目線を送る
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