始まりのお話 出会いは些細なきっかけだった

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 詩織が帰ったのを確認した淳史は、頭を抱えて何やってんだろ俺、と呟く (あんなこと言ったら困るに決まってんじゃん) (でも、もう一度ちゃんと話したいって思ったんだよ)  さっきの自分の行動を思い返しながら、反省する淳史の姿は、先ほどまでとはまるで別人 (すごく嫌そうな顔してたから連絡来るわけないよな……)  無意識に手元にあった紙ナプキンに書いたIDを思い浮かべながら、そんな事を呟いていると喫茶店のマスターがやって来て、あの子帰ったのと話し掛ける 「本当にお礼だけした……」 「元々お礼だけする予定だったんだろ? なら、とりあえずお礼出来たから良かったじゃない」 「良くないし……」  テーブルに頭を抱えたまま顔を伏せた淳史に笑うマスターは、あの子今までの子と反応が全然違ったな。と言えば、迷惑掛けたらいけないだろうからって……と体勢はそのままに返す 「……マスクしてたからよく顔は見てないけど、あれはもう会う気ないと思う」 「やっぱりそう思う?」 「お礼もしなくて良いって言ってたんだろ? それなら会う気ない」 「何回も言わなくて良い」  俺もう仕事に戻らないと、とノロノロと上体を起こせば、お会計お願いね。とマスターが一言 「……分かってますよ」  支払いを済ませた淳史に気づいたファンらしき女性たちが淳史に駆け寄ってきて、黄色い声援を上げていた。  そんな女性ファンたちにさっきまでとはまるで別人のようにテレビでよく見る笑顔を浮かべるとさらにテンションを上げた女性ファンの様子を眺め、これからも応援よろしくね。と表情を変えずに手を振りながら話しかけると次の仕事場所に向かうため歩を進め、帽子を深く被り直した。
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