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丁度、座敷に食事が運ばれてきた。葵はおれから逃げるように立ち上がると、配膳を手伝い始めた。
「葵ちゃんたら、どうしはったんやろか」
「やっぱり、いつもはあんな感じではないんですか?」
「そら、いつもはもっと可愛らしいえ?」
やはり、そうなのか。おれたちの会話が聞こえているのかいないのか、葵は知らん顔をして食事の用意をしている。
「なんだ、おまえ。早々に、なんかやらかしたのか」
「え? いや、まあ……」
やらかしたと言えば、そうなのだが。やはり、すれ違い際に勝手に触れてしまったことを怒っているのだろうか。
「何しはったん? 葵ちゃんが怒るなんて、珍しい」
「その……」
おれは自分が仕出かしたことを正直に話すと、菊乃がケラケラと笑った。
「――なんや、土門さん。いやらしいわあ! 葵ちゃんに手え出したらあかんって、言うたやないの」
「……はい。すみません」
食事の用意を終えた葵が、おれの隣に腰を落ち着けた。
「葵ちゃん。土門さんかて、そないな悪い人やないさかいに、かんにんしてあげてえな」
「……へえ。そないなことよりも、舞いましょうか?」
葵がそう切り出し、舞を披露してくれることになった。今夜は、菊乃は三味線を奏でるらしい。そして、葵が一人で舞を披露するようだ。
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