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菊乃が奏でる音に合わせて、葵が舞いだした。葵の舞は、可愛らしさと艶やかさが入り混じり、不思議な魅力があった。
女性のようにしなやかに舞う姿は艶麗であり、そして凛とした風格を感じる。
不意に、葵と目が合った。先程まではあんなに素っ気なかったくせして、今は誘うような視線を投げてきている。
普段の清廉さとは違い、妖艶さが漂っている。
そのギャップに、おれはもう葵に心酔する他なかった。
食事に手をつけることなく、おれは最後まで葵の舞に夢中になっていた。
舞が終わると、先程とは打って変わって普段通りの葵に戻ってしまった。
「葵、すごく綺麗だったよ。また、お座敷に呼んでもいいかな?」
もしかしたら、断られるかもしれないと思った。
「おおきに」
やはり、断られているのだろうか。そう思ったが、意外にも葵は言葉を続けた。
「―――お頼申します。帝理さん」
「……っ!」
今のは、不意打ちすぎる。愛しい葵の声で名前を呼ばれ、おれは悶絶しそうになった。おまけに、今日初めて葵が笑顔を見せた。
おれを殺す気か、と思ってしまう程に愛らしい不意打ちのダブルコンボに言葉が出てこなかった。
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