デート

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 初めて葵を指名して以来、外せない予定がないとき以外の週末は、葵に会うために宇田屋に通っていた。剣持も毎回同伴しているため、おれと葵、剣持と菊乃の四人で顔を合わせている。  話を聞くところによると葵は、本名は伊吹葵(いぶきあおい)、年齢は二十二歳で、宇田屋の女将の実の息子だという。本来、彼のいる世界は男子禁制で、女将も結婚が許されておらず葵に父親はいないという。  そんな中、なぜ葵が芸舞妓に混じり座敷に上がることができるのか。その理由は、詳しくは教えてもらえなかったが、宇田屋がある花街の舞の師匠に葵の舞が評価されたことが大きいらしい。  女性の舞を男性が踊ることすら許されることではないらしいのに、核心的なことは教えてもらえなかった。  まあ、葵に会えるならそんなことはどうでも良いのだが。  今夜は、華の金曜だ。もちろん、宇田屋には予約済みである。  葵の花代は確かにそれなりにするが、その分働けば良いのだと割り切っている。それに、葵の顔を見れば一週間の疲れなど一瞬にして吹き飛ぶ。  仕事を終えたおれたちは、二人揃って浮き足立ち宇田屋に向かった。 「葵、今夜も綺麗だね」 「土門さんたら、相変わらずやわあ。葵ちゃんも、ええ加減振り向いたげたらええのに」  菊乃が茶々を入れてくるが、毎度のことだ。 「おおきに。土門さんも、男前どすね」  相変わらず葵は素っ気ないが、最初の頃よりは打ち解けてきたと思う。ただ、そう頻繁に下の名前で呼んでくれるわけではない。どうにか呼ばせようとするが、さらりと交わされてしまう。  けれど、まるで恋の駆け引きをしているようで、これはこれで楽しいと思っている。もしかしたら、おれは手のひらで転がされているのかもしれない。
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