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それから暫くして、仕事が入っている時間になった葵は座敷へと呼ばれて行ってしまった。涼子も女将として忙しい時間に入ってしまい、構ってくれる相手を失くしたおれは一旦マンションに戻ることにした。
剣持たちとの約束の時間までには大分早く、手持ち無沙汰になったおれはあることを思いついた。
寝室に向かうとナイトテーブルの引き出しを開け、中からこっそり隠してあったある物を取り出した。
「……おお、ふつうにメープルだ」
開封したそれを嗅ぐと、甘いメープルシロップの香りがする。これを葵の滑らかな肌に塗りたくり隅々まで舐めさせてもらうつもりでいる。
そう、これはメープル風味のローション。普通のローションとは別にハチミツ風味のものも持っていたのだが、開封してから結構な時間が経ってしまいそろそろ替え時だろうと判断したのだ。
見た目は完全にシロップのそれをヘッドボードの戸棚に移動させると、それとは別にもう一つのある物を取り出した。
「流石にこれは、怒られるかな……」
手にしているのは所謂、定番の大人のオモチャだ。本来の用途はマッサージのためだが、大人にとっては秘密のツールでもある。
例の一件以来、葵が新しくオモチャを買った様子はない。監視しているつもりはないが彼の行動や様子はつい気になってしまうもので、それを本人も気にしてしまっているのかもしれない。
勿論、下心は大いにある。だがもし葵がオモチャを買うことを躊躇っているだけなのなら、これを機に彼のプライベートな部分を解放させてあげたいと思った。
「ふぅ……なんでおれ、緊張してるんだろう……」
もう何度も葵を抱いて隅々まで知り尽くしているのに、どうしてこんなにも緊張するのだろうか。
「やっぱ、褌でも買っておけばよかった……」
下らぬ独り言をこぼしながら、ローションの隣にオモチャを移動させ戸棚を閉めた。
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