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剣持と菊乃も相変わらずだなと思いながら、葵が隣に来てくれるのを待っていると雛菊と目が合った。
「雛菊ちゃん」
片手を上げて合図を送ると、彼女は嬉しそうににっこりと笑いながら手を振ってくれた。元気そうで良かったと思っていると、おれの身体に当たるようにして葵が隣に腰を下ろした。
「葵っ……!」
べつにやましい気持ちがあるわけではないが思わず焦ってしまい、両手を上げて降参のポーズを見せると、葵は冷ややかな視線を送ってきた。
「よろしおしたなあ」
「葵、ちがうってば! ただ挨拶をしただけだ。やましい気持ちはないんだって。葵に会えるのを、ずっと楽しみにしていたんだから」
少し離れただけでも、すぐに葵が恋しくなってしまうのだ。
「それに、葵が一番綺麗だよ」
耳元でこっそりとそう囁くと、葵は薄っすらと頰を染めて口元を緩ませた。
「葵、誕生日おめでとう。それにしても、えらくいい着物だな」
葵の着物を目にした成田が、向かい側の席から目敏くそう言った。
「おおきに。そうどっしゃろ? 実は、帝理さんに戴いたんどす」
それを聞いた成田は眉を上げておれを見た。
「へえ。そんな大層な物を贈るなんざあ、男らしくなったじゃねぇか」
「そりゃ、どうも……」
この男は普段から何の気なしに、こういうプレゼントをひょいと贈ったりするのだろうな。
おれたちの会話を聞いた舞妓たちが、葵の着物に興味津々といった視線を送っている。それに気が付いた葵は誇らしげに笑って、彼女たちに袖を広げて見せた。
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