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平然としているが、改めて値段を聞いて怖くなってしまったのだろうか。華奢なその手をそっと握り返してあげると、葵はフッと小さく息を吐いた。
「けなるいやろ。ほんなら、成田さんが買うてくれはるかもしれへんなあ」
なぜ野暮なことを言うのだと咎めるように葵が成田に話を振った。
「お安いご用だが、流石にタダではあげられないさ。このおれを惚れさせたんなら、いくらでも買ってやるよ」
成田がお得意の口説き落としを仕掛けると、舞妓たちは黄色い声を上げて色めき立った。
その様子を見ながらおれと葵は苦笑しつつ、陰でこっそりと指を絡めたのだった。
そして、お待ちかねの葵の舞を披露してもらえる時がやってきた。何度観ても飽きることのない彼の舞にウズウズとしていると、そんなおれに気が付いた葵が楽しそうに笑った。
「なんや、そないに早よ観たいんか?」
「もちろんだよ! ずっと、楽しみにしていたんだから」
待ちきれんばかりに正座をして舞を鑑賞する態勢を整えると、葵もクスクス笑いながら舞台に移動していった。
おれの贈った世界に一つしかない美しい着物を身に纏い舞台に立った葵は、一呼吸整えた後スッと舞の態勢に入った。
タイミングを合わせて菊乃が三味線の弦を弾き、そこから葵の舞が始まった。
舞妓たちも白眉の舞を拝もうと、息を呑んで葵の一つ一つの動作に目を凝らしている。この世界においても高嶺の存在であるにも拘らず、彼はこのおれのものなのだ。
その現実の奇跡を実感し、魂が震える。
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