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そんなこんなで、おれは葵とはまた一から距離を詰めていくことになった。そんなある日、珍しい人物から連絡が入った。
例の金の亡者だった。
『よお、元気にしてるか? 暇なら、今夜飲みに行こうぜ』
通話越しに、あの胡散臭い笑顔が見える気がする。
『悪いですけど、生憎忙しい身でして』
『弁護士先生は大変だなあ。なあ、聞いたぜ? おまえ、宇田屋に通い始めたらしいな。しかも、あの子を指名していると聞いたよ』
初めて葵の噂を聞いたのは、この人からだった。もしかしなくても、この人も宇田屋の常連なのだろう。
『……それが、何ですか? 他に用がないなら、切りますよ』
『待て、って! 相変わらず、いけずな奴だな。実はな、おれも葵をお座敷に上げてるんだぜ? 知ってたか?』
『えっ……』
『なあ、好き者同士仲良くしようぜ? そういうことだから、今夜二十一時に四条近くのバーで待ち合わせな。後で、店の場所をメールで送るよ。じゃあ、また夜に』
『ちょっ、待ってください……』
金の亡者……もとい、成田隆二は、一方的にそう言うと通話を終了させた。
おれは呆気にとられ、暫くスマートフォンを片手に呆然としていた。
噂をしていたくらいだから、成田も葵を目にしたことがあるのだろうとは思っていた。だが、成田も葵を指名していることは予想だにしていなかった。
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