『we're Men's Dream』 -type B-

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『we're Men's Dream』 -type B-

 夕方になって、ふたりとも目が覚めると、ヌイのパパがごちそうを出してくれる。 「マコちゃん、ヌイとなかよくしてくれてありがとな! たんと食べておくれよ!」  ヌイのパパとおじいちゃんは、大きな鉄板でもんじゃ焼きや焼きそばをつくってくれる。遠慮せずにもりもり食べていると、ヌイのおじいちゃんに頭をなでられる。 「いいなあ! マコちゃん。その食いっぷり! 見てて気持ちいいよ」  台所と居間を、いそいそとヌイのおばあちゃんが往復して料理や材料を運んでくれる。ボウル四つ分いっぱいのもんじゃ焼きと、焼きそばを八玉くらい食べて、ごちそうさまをした。デザートに白玉ぜんざいをだしてくれたけれど、これも五杯おかわりをする。 「ほんとうにとっても気持ちがいい食べっぷりねえ」  ヌイのおばあちゃんは満足そうに笑う。ヌイのパパとおじいちゃんもにこにこしている。ボクはヌイとその家族が大好きだった。  自宅はヌイの家から歩いて二分の距離。帰宅すると夕飯の時間。少しだけ遠慮してごちそうになったので、問題なく食べられるだろう。 「マコちゃん、おかえりなさい」  おなかの大きくなった母が玄関まで迎えてくれた。ボクは来年から小学生。その頃には弟が生まれると聞かされていた。とても楽しみ。 「おとうさん、呼んできてくれる?」  母にそう言われたので庭にある防音室に向かう。中からは小気味よい打楽器の音が聴こえる。ノックしても父には聞こえないだろうから、二重の防音扉を開けてから両手を大きく振る。  父はボクに気づいて演奏を止めた。 「お、マコトか。夕飯に呼びに来てくれたのかな?」ボクがそれにうなずくと、父が、首にかけたハンドタオルで汗をぬぐいながら続けて言う。「マコトもちょっとやってみるか?」  父はそういって簡単なパターンを披露してくれた。気持ちの良いリズムだった。やがて立ち上がって、ボクに向かう。父がヒッコリーでできたドラムスティックを二本渡してくれた。でも、どうすればいいのかわからない。ボクを促してドラム椅子(スローン)に座らせてくれた。 「左側のお皿がハイハット、真ん中の太鼓がスネア、下にあるペダルを踏んで叩くのがバスドラムっていうんだ」  ボクの右手に手を添えながらハイハットを四分音符で叩く。左手では、二拍と四拍のタイミングでスネアを叩く。拍アタマにキックを入れながら楽しんでいると、いつのまにかボクはリズムを奏でる音楽になっていた。とても気持ちがいい。  自転車練習時の補助を外すかのように、父が添えた手を離す。リズムにのったままボクの手足は勝手に動き出す。他の太鼓はどう使うんだろうと、シンバルをならしたり、タムも叩いたりする。振り向くと父が微笑みながら見守ってくれていた。その時、入り口から声がする。 「ちょっと、おとうさんもマコちゃんも! もう晩ごはんですよ!」  大きくなったおなかをさすりながら母が呼びにきていた。  小学校はヌイとは別のところだったので、近所なのに疎遠になってしまった。学校が別だったことに加えて、予定通り弟がうまれたので、弟をあやしたりすることも増えていたから。弟は父の名、誠一郎から一文字とって誠二(セイジ)と名付けられていた。周りの大人たちから「セイジちゃん、おねえさんのマコちゃんそっくりね」といわれていたこともあって、余計にかわいがっていたのかもしれない。  小学校四年生。高学年になるとクラブ活動がはじまる。ボクは吹奏楽部に入って、パーカッションを担当することになった。家では父からドラムを習っていたので、すんなりと修得することができた。男子児童からは、「マコ~、今日も体重乗っかったデカい音させてるな~」などと、からかわれることもあったけれど、実際に体重を乗せて、いい音を出していた自信があったからぜんぜん気にしていなかった。  ある日、帰りの会でボクのことが議題にあがった。おなじクラス、おなじ吹奏楽部の女子からだった。 「先生。男子たちが、マコちゃんのことをいじめています」  いじめ? ボクはぜんぜん意識していなかったけれど、周りから見るとそうでもなかったみたいだった。押し黙った先生の前で、ボクをさしおいて喧々諤々(けんけんがくがく)と女子と男子の舌戦が繰り広げられる。帰宅後、そのことを父に話した。 「マコトが全然気にしていなくても、周りに影響があるんだろうね。それだけマコトの存在が大きいんだよ。ときとして(おおやけ)神輿(みこし)になるのが「僕」という存在だからね」  父の言うことは、よくわからなかった。小学校残りの三年弱、吹奏楽部を続け、中学校に進学。共学ではない、名門の女子中学校。そこでふたたびヌイと同じ学校に入ることができた。
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