『we're Men's Dream』 -type B-

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『we're Men's Dream』 -type B-

 偶然なことに、ヌイも小学校時代、吹奏楽クラブに入っていたと知る。ピッコロ担当だったけれど、背がどんどん伸び、中学入学時には一六〇センチ近くなったヌイの身長から比較すると、小さくて似合わない、と言われていたことがひっかかっていたらしい。  身の丈にあった大きい楽器がいい、とのことでテナー・サックスを担当することになった。ストラップを肩にかけて真鍮色のサックスを構えるヌイの姿はとても恰好よかった。 とある日、いっしょに帰宅する途中、ヌイから相談があった。 「ねえ、マコちん。部活もたのしいけどさ、ちょっとバンドやってみない?」  ヌイはコードレスのイヤホンを自分の耳から外して私に曲を聴かせる。煽情的な歌、激しいギター、大音量のベース、そしてタイトなドラム。衝撃で、ボクのやわらかい体が、びびびと振動した。 「これって、ロック?」 「そう。吹奏楽で誰かが書いた曲やるのもいいんだけど、バンドで自由にオリジナルやるほうが楽しいかなって思ったんだ」 「ロックでサックス吹くの?」 「ううん、この機会に別の楽器もいいかなって。ギターもいいかな、と思ったけど、背ばっかのびちゃったから、スケールの長いベースを狙ってる。テナー・サックスも低音楽器だし、応用できるかなあって」  エアドロップでスマホにその曲を送ってもらう。帰宅してからなんども聴き返す。タイトでラウドなロック・ドラムのサウンドは、ボクの理想に近かった。父にも聴かせて、バンド結成について相談をしてみる。 「うん、とってもいいと思う。おとうさんも大学のころバンドでドラムやっててさ、ロックも大好きだった。マコトがやってみたいっていうなら、どんどんやりなさい。おとうさんのドラムも使っていいからね」  放任、ではなく、心底応援してくれそうだった。 「そういえば、ヌイちゃんはベースやりたいって」 「そうか、おとうさんの知人が御茶ノ水で楽器屋経営しているから、紹介してあげるよ」  この時、ヌイとのバンド結成が決定的になった。ギターとボーカルはまだ欠員だったけれど、このあたりはヌイから語ってもらおうかと思う。  あれから五年後の今。せまい五右衛門風呂を余計にせまくしている私の体。ぷよぷよな胸に、対面するヌイのおなかが埋もれている。ヌイと密着するのは幼稚園以来だった。 「マコちん。……フェス、最高のプレイしようね」  頭上からヌイの声が聞こえた。 「うん。ヌイちゃん」  翌日に控えている初めての音楽フェス。  あの時思った理想にたどり着いたバンドとサウンド。思い切り体重を乗せて太鼓を響かせよう、と心の中で誓った。  五右衛門風呂で体温が戻ってくると、おなかがくぅと、鳴る。  おなかすいた。 <了>
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