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「監督は俺がキャッチャーって、最初から決めてたんだと」
唐突に西木が言った。
「で、最初に呼び出されて聞かれたんだよ」
そうだ。今日、練習の合間に一人ずつ面談があった。
俺は監督に『目標は?』って聞かれて、『甲子園』と答えた。
周りはラーメン啜る音や、厨房からの音、従業員や客の話し声でガヤガヤうるさいのに、西木の声ははっきり聞こえた。
「誰が、ピッチャーに相応しいと思う? って」
ゴクリ、と息を飲んだ。自分でも分かってしまうくらい、喉仏が動いた。
「なんで、俺?」
仏頂面で尋ねた俺に、西木は「ブハ」と吹き出した。
「そんな顔すんなよ」
「俺には向いてねえだろ」
「なんでそう思うんだよ」
「…………」
自分のこと、ビビリだなんて、人には言いたくねえ。俺は黙って、大袈裟にラーメンを啜った。
「千葉はさ。逃げねえじゃん」
西木は空の器にネギとニンニクとニラをぶち込んで食べ始めた。
「昔、野球部の先輩に虐められた時、いつも他の部員、庇ってたじゃん」
「…………」
くそ。目頭熱くなるだろ。
そんなこと言うな。一番殴られてたの、お前じゃんか。
でも「鍛えてるから効かねえ」と、笑いながら帰る西木見て、俺も負けないように筋トレ始めた。
「それって、ピッチャーに必要な素質だと思うんだよな」
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