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  「垂水くん、虫嫌い克服したかと思ってたわ」 「克服なんて無理に決まってるでしょうっ」 「よく山村で修行する気になったな」  時節柄、そしてアドレナリンのお陰で一切合切抜け落ちていたが、山の中は暖かい季節が来ると虫さんでいっぱいになる事が予想される。蝉時雨の木立ちなんて養蜂場職員かスズメバチハンターかみたいな防護服を着ても歩ける気がしない。  そして今、頂くお野菜には冬籠り前に潜り込んだのであろうアレコレがスヤスヤなさっている事案が頻発中だ。この時期最高の白菜なんて黒ひげ危機一発よりスリリングだ。 「宙を舞う白菜見たのは初めてよー」 「どうぞお母様に」 「うん。俺も鍋に使うー♡」 「反町さんと堪能してください」  あさって。  藤間さんは由一郎と一緒に戻って来る。新年からマンションチームに加わるこの人に代わって、兄が俺のサポートをしてくれる。 「運転、気をつけてくださいね」 「垂水くんも戸締りしっかりね」  雪を避けた山道を、藤間さんの車のテイルランプが下りて行く。
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