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碓氷村のハリスホテルは客室数は中規模程度だけど、世界各国に星付きホテルを展開している有名ホテルグループの郊外型リゾートって事で、オープン時はかなりの注目を浴びた。
王道的クラシックスタイルの本館、外国人に人気だと言う和風な内装が売りの別館。スパと屋内外のプールにテニスコートに、最近は結婚式場としても人気と聞いた。近場のゴルフ場とも提携しているし今年は隣接アイスリンクまで完成して、新たな客層へのアプローチも大変にアグレッシブだ。
どんちゃん騒ぎのアネックス宴会場を抜け出し、佑と二人で今夜の宿泊先である本館へ向かっているとポスターに足が止まる。
「アイスショーだって! 一回観てみたいなー」
「寒そう……」
「ハニュウくんも現役引退したら地方公演とかやってくれるかなー」
「いつの話だ。まだまだ絶好調だろ」
佑はほんのり酔っているのかずーっとニコニコだ。由一郎と川添社長が飲ませるからだ。藤間さんが気を回して逃してくれて助かった。
「次は民宿だって言ってたのに、また泊まれるなんて思ってなかったわ。宗ちゃんのお陰だなー」
「500円玉貯金、交通費とガソリン代で全然増えないだろ」
「そこは別かなー。それに食費が半分以下だし?」
「嘘つけ。いっつもこっちにいっぱい食材運んで……」
「貰い物ばっかりだもん」
「無理は」
「してないよ、全然」
へらっと笑う佑が愛おしい。たぶん、佑が俺を愛おしいって思うよりずっとずっと俺の気持ちの方が強いに違いない。
部屋に入ると同時に背中に抱きつくと、佑はそのままで俺を引きずってバスルームに向かった。一緒に入ろうなーって。それでも離れ難くてくっついていると手を取って指を噛まれた。最近の佑はすぐガジガジ噛んで来る。ちっとも痛くないけど。
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