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『母親らしいこと』は苦手な人って認識だけど、奈津子の事は好きだったと思う。
父慎太郎はトップに向かない性格且つ自他共に認める仕事人間で、家でのんびり過ごす姿はほぼ見たことがない。
余所の家の団欒ばかり考えて、自分の家の団欒には無頓着なんて “医者の不養生” とか “坊主の不信心” とかそんなやつだといつも思っていた。
『スタレジのマンションは慎ちゃんの集大成になるだろうから、宗と一緒に仕事できるの楽しみだって言ってたんだけどなー』
『年行くと色々考えるモンなのよー。我が子達が手に職つけて独り立ちしたんだもん。ちょっと感傷的になるのもしょうがないでしょ?』
これまで意識してなかったけど、俺って慎太郎が四十才の時の子だ。今は奈津子だって還暦を越えている。二人ともアグレッシブゆえに若々しい印象とは言え確実に年を重ねてるんだと……俺も感傷的になった。
そして兄、由一郎だが。
「宗く〜ん! 相変わらずカ〜ワ〜イ〜イ〜!」
「ヒゲ痛い。あと臭い。風呂入って」
「たった二人の兄弟なのに冷たーい」
前回会ったのは大学を卒業した年だったかも知れない。昔から可愛がってくれてはいたけど、どちらかと言うと物静かなタイプだったのに。
太陽の国スペインの気候風土と鮮やかな色彩が何らかの作用を及ぼしたのか、由一郎は別人かと思うほど陽気なおっさんになっていた。
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