遠くへ、遠くへ、遠くへ

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 陽太は駅の銅像の前で打ちひしがれていた。千葉の遊園地に好きな子を誘ってデートに漕ぎ付けたのだが。1時間待っても2時間待っても相手が来ない。事故にでもあったのかとメールを送信してみたら単に気が変わったという。気が変わっただあ?!陽太は下唇を噛みしめた。痛いと思うまで強く。ここは埼玉県なので、千葉の遊園地までは2時間以上かかる。だから朝の7時に駅の前で待ち合わせをしていたのに。  さあ、一日が暇になった。それだけじゃない。ショックが甚だしく大きい。これから憂鬱な日がいつまで続くのか。  ここのところ陽太は浮かれていた。好きな子がデートを承諾してくれていたからだ。3年かけた恋だった。19歳の大学生の時に合コンで知り合ったのがデートに誘った女の子だ。そう、名前は聡美ちゃん。垂れ目でまつ毛の長いお尻がきゅっとあがった外人のようなスタイルの女の子だった。  陽太はがっくり肩を落とす。気が変わったじゃなくて、せめてもの理由が欲しかった。お母さんが病気になったとか、ペットの犬が具合が悪くなってしまっただとか、嘘も方便。いきなり天国から地獄に叩き落とされる俺の気持ちにもなってくれないか。  陽太は朝ご飯を食べずに家を出て来ていた。待ち合わせが7時だったので一世一代の初デートにお洒落の時間を費やしていたからだ。ワックスでバッチリ決めた髪が今となっては恥ずかしい。  陽太は何のやる気も消え失せていた。だが呆けたように立っているのも何だと思い、駅前のロータリー脇にあるハンバーガー屋さんを見る。見たところ、すでにやっているようだ。制服の高校生が入っていくのが見える。このところハンバーガーは食べていない。まだ22歳だが、朝は納豆だとかぬか漬けだとか海苔の佃煮なんかで白飯を食べるのが癖になっている。今日は突然のストレスのせいか、食欲に火が付いた。こんな状況の時は環境を変えて、たまにはマフィンなんかを食すのもいいかもしれない。
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