弱い子

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弱い子

田んぼだらけの田舎町、稲穂が揺れる田んぼ道で、小柄な少年がいじめられている。 「やーい、弱虫安之! そぉら、毛虫だ!」 「こっちはカエルだ!」 「ひぃっ!? やめてげれー!」 ふたりの少年は、それぞれネコジャラシや葉っぱ葉っぱなどを、安之に投げつける。それらが本物の毛虫やカエルと思い込んだ安之は、頭を抱え込んでしゃがみこむ。 「やーい、ビビりビビり! 植物にビビってやんのー!」 「ばーかばーか!」 ふたりは罵声を浴びせると、駆け足でどこかに行ってしまった。 「うぅ……なんでこんな目にあわなきゃなんねーんだ……」 安之はトボトボと家に帰った。安之の家はこの町で1番広い田んぼを所有していて、町1番の金持ちだ。安之がもう少しハッキリした子ならこうもいじめられることはなかったのかもしれないが、小柄でいつもおどおどしているくせに持っているものだけは立派で生意気だといじめられている。 居間に行くと、父と祖父がプロレスを見ている。筋肉隆々の男達がぶつかり合っていくのはテレビ越しでも迫力があり、安之は立ったままテレビに釘付けになった。 (オラもこんなに強くなったら、いじめられねーですむのがな?) 安之がぼんやり考えながらテレビを見ていると、祖父が振り返って手招きをする。 「帰ってたのか。そんなところにいねぇで、こっちへさ来て、一緒に見んべよ」 「うん!」 安之は祖父の隣に座り、3人で夢中になってプロレスを見た。 プロレスを見て以来、安之は積極的に家の仕事を手伝うようになった。筋力をつければ、いじめもなくなると思ってのことだ。農家の仕事の大半は重労働で、安之の身体は少しずつたくましくなっていった。 だがいじめは無くなるどころか、エスカレートしていった。 「筋肉ダルマの弱虫ー」 「そんなに筋肉あるならこれも持てよ」 いじめっ子達は安之にランドセルを押し付ける。 (中学はここらのじゃなぐで、コイツらが行けないような遠いところへさ行ぐんだ……) 安之は密かに決心しながら、ランドセルを持ち直した。
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