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オカンとオトンと雛祭り【後編】
急に決まったイベントの当日の朝は、日曜日だったので…。
いつもの常連組は、早い時間から店へ来てくれて掃除に飾り付けに仕込みまで分担して手伝ってくれていた。
どこからか、比奈が帰国するという話を聞きつけた酒や肉やその他を店に卸してくれてる業者さんや、商店街の人達が…お祝いやと言うて、お花やお酒を届けてくれた。
「オカンは、皆に慕われてるんやなぁ~♪」
ありがたいことやでと、嬉しそうにオトンは店の掃除を手伝ってくれていた。
「ついこないだまで、どこぞの国へ行ったきり…なかなか、帰ってこんかった癖に。ほんま調子がええんやんやね~。オトンは!」
ハッキリと言い難い嫌味をズバッと言うてくれたんは、『ローズマリー』の亞夜子ママやった。
「腹立つかも知らんけど、ええタイミングで帰って来てただけでも褒めたろ~や(笑)」
そこへすぐにフォローを入れたのは、こうちゃんやった。
「オカンが行かんといて~って言うたら、ワシは行かんのやで。オカンが、ええて言うてくれるから、ワシは安心して旅が出来るんや♪」
オトンは、ちっともママの言葉が堪えていないらしくて、ヘラヘラと笑って開き直っていた。
「まぁ、うちもそれなりに好きにやらせてもろてるしね。この歳になったら、好きなことを好きなだけして死なせてやりたいしな♪」
私は、少し厭味ったらしくオトンに言ってからママと顔を見合わせてケラケラと笑った。掃除を終わらせて、こうちゃんとオトンは比奈を迎えに行く準備を始めた。
「ワシら、そろそろ比奈を迎えに空港まで行ってくるわ!」
「比奈ちゃん。せっかちやから、早目に行っとかんとな♪」
せっかちな比奈が、一人で絵美里を連れて帰って来んようにと念のために早めに店を出てくれた。
「オトンは、ほんまこうちゃんが可愛いんやなぁ~」
オトンにとってこうちゃんは、息子みたいなもんなんやろね~って、亜夜子ママはクスクスと笑いながら言うと、大きな花瓶に桃の花を綺麗に生けてくれていた。
*************
二時間ほどして、店の戸が勢い良く開いたと思ったら、絵美里を抱えた比奈が帰ってきた。
「ただいま~。もう~アカン! 時差ボケでしんどいわ!」
「おかえり~♪ 絵美里は? どうもないか? 大丈夫か?」
娘のことよりも、孫のことを心配してる私を見て…比奈は、ニヤっと笑うとおしぼりで顔を拭きながら口を開いた。
「もう~! すでにババ馬鹿全開やん。少しは、娘の心配もしてくれる?」
「何言うてんの! 行ったら行ったまんまで、泣き言の一つも言うてけえへん娘の心配なんかするわけないやろ?」
私と比奈が、冗談を言い合って笑ってたら…こうちゃんとオトンも、店に帰ってきた。
「オカン、聞いてや! 比奈ちゃん荷物これだけやねんで!」
比奈の荷物が、キャリーバッグ一つやったらしくて…こうちゃんもオトンもめっちゃびっくりしたらしい。
理由を比奈に聞いたら、飛行機のチケットは会社が取ってくれたけど荷物を送る運賃は自腹やからキャリーバック一つで来たらしい。
「どうせ絵美里の物は持って来んでも、オトンとオカンが用意してくれてるやろうし、こっちにあるもんは持って来んかってん♪」
「さすが、比奈やな。ようわかってるわ!」
比奈は、座敷に積んである絵美里のベビー布団や紙おむつを眺めながら正当な理由を述べていた。
荷物を座敷に下ろして比奈は、こうちゃんたちと一緒にテーブルを囲んで誕生日と久しぶりの帰国を祝ってもらっていた。
「比奈ちゃん、絵美里ちゃんおかえりなさい! 比奈ちゃん! お誕生日おめでとう! カンパーイ!」
こうちゃんに音頭を取ってもらって、みんなでカンパイして宗ちゃんと拓海ちゃんが持っていたクラッカーを鳴らしていた。
頭の上で大きな音がしても、絵美里はキャッキャっとはしゃいで喜んで怖がって泣くことは無かった。さすが私の孫娘やわ。
もちろん、がんもは驚いて裏口の箱の中へ隠れてしまった。
**********
「こんばんは~♪ オカン、比奈! 久しぶり~」
良いタイミングで店の戸を開けて入って来たのは、比奈が一時帰国したと聞きつけた比奈の幼馴染の香織ちゃんやった。
「香織やん! わざわざ来てくれたん?」
比奈は、嬉しそうに香織ちゃんに駆け寄って抱きついていた。
「そうやで~♪ こうちゃんが、教えてくれてなぁ~。有給休暇使って昨日の晩から実家に泊まって待ってたんやで」
香織ちゃんは、比奈のおでこを小突いて笑った。
香織ちゃんは、仕事の都合で…今は、福岡で暮らしてるから。盆と正月位にしか帰って来られへんはずやねんけど、比奈の為に無理して休みを取って帰って来てくれたんやとこうちゃんからは聞いていた。
それから、オトンが絵美里から離れへんかったのには…ちょっと私もびっくりやった。やっぱり孫って可愛いもんなんやね。一緒にがんもまで混ざって楽しそうやったし。
「何年ぶりやろ? 家族が揃ってこんなことしてるん。しかも孫までおるし♪」
私がしみじみ言うと、比奈がカウンターに座ってオトンと絵美里とがんもを見ながらこう言うのもええもんやな~と嬉しそうに笑っていた。
「雅章が言うには、本社を切り盛りしてたやり手の先輩が亡くなって、その人の仕事の引き継ぎを急いでやってるらしいわ。場合によっては、雅章が本社へ帰って来なアカンかもしれへんねん。まだ、どうなるかわからんけどね」
比奈は、取り敢えずは二ヶ月位はお世話になると思います。と言って私とオトンに頭を軽く下げていた。
暫くずっと一人でおることが多かったから、なんか変な感じやけど…たまにはええかも♪ とか言ってたら、横で亞夜子ママと高田さんがクスクスと笑ってこんなことを言った。
「絶対! オカンもオトンも三日も我慢出来ひんとうちらは思うで~♪」
私もその言葉を否定出来ずに「確かに当たってるかも~♪」なんて、心の中で思っていた。
その後は、皆でカラオケに行って、私も久しぶりに羽目を外したので、翌日は臨時休業してゆっくり家族団らんを楽しませて貰いました。
その後の二ヶ月がどうなったかは、また別の話でお楽しみに。(笑)
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