ザンゾウカノジョ

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 バスの窓から注意して探していたのだが、次の像はなかなか見つからなかった。病院前にも、その周辺にも、次の停留所にも、その次にも、彼女の姿はない。歩道の方にも目を配るが、どこにも彼女はいなかった。  そうか、必ず残像ができる訳じゃないんだ。  そんな単純なことにようやく気づけたときには、バスは終点まで来てしまっていた。仕方なくバスを降りながら、これからどうしようかと途方に暮れた。この場所に来るのは初めてだし、穂香がここを知っているということもない気がした。なんだか急にものすごく心細くなる。  スマホを確認したが、ラインもメールも新着はない。途中何度も電話してみたが、電源が入っていないとアナウンスが流れるばかりだった。病院からも連絡はないから、そっちにも行っていないのだろう。 「どこ行ったんだよ…」  思わず呟くと、それに答えるように「きゃあああっ!」と悲鳴が上がった。反射的に声の方に走り出していたが、穂香の悲鳴ではないことだけは確かだった。  声がしたのは近くの公園だった。遊具のない、ベンチが数脚置かれているだけのスペースで、若い女性が尻餅をついている。彼女が震えながら指差した先のベンチで、薄く透け始めた穂香が座っていた。 「ああ…」  よかった、やっぱり彼女はこの辺りにいる。  僕は少しほっとしながら、女性を助け起こした。大丈夫です、心配ありませんと言ってあげたのだが、女性は覚束ない足取りのまま逃げていった。失礼だなとは思ったけど、事情を知らなきゃそんなもんかとも思う。もしかしたらこの世の幽霊譚の半分くらいはこの病気が原因なんじゃないのかって気がしてきた。
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