ザンゾウカノジョ

4/6
前へ
/6ページ
次へ
 そのあとは比較的簡単に“彼女”を見つけることができた。歩道に、お店の軒先に、塀の前に、点々と穂香の残像が立っている。こっちのは透けていないせいか、お化けに間違われたりはしていないようだった。その代わり、突然現れた等身大リアルオブジェは人々の興味を引き、あちこちで写メられたり撫で回されたりしている。回収したいけどそれも無理な話で、こうなると早く消えてほしいと願うしかない。  奇妙なヘンゼルとグレーテルを演じている内にだんだん人気がなくなってきた。建物も疎らになったし、目の前の橋を越えるとその先はもう山だ。その人気のない橋の真ん中に、穂香が立っている。 「穂香!」  返事はなく、振り向きもしなかった。これも残像だ。足元にバッグを置き、欄干に手を乗せて遠くを見ている。 「……おいおい、まさか…」  これが残像だとしたら、彼女の次のアクションはなんだったんだ?  まさか、そんなはずないよな。  考えたくないのに、嫌な予感が心臓を潰さんばかりに膨らんでいく。僕は欄干に飛び付き、身を乗り出して真下を覗いた。流れる川の水面は、ものすごく遠く、静かだった。  欄干から離れ、山の方に走る。  頼む! 次の残像か、穂香本人が見つかってくれ!  半狂乱になりながら辺りを探したが見つからない。陽が傾いて、山道はもう薄暗かった。怖がりの彼女がここにいるはずはないなと思い直し、僕はまた橋の方に帰ることにした。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加