旅へ出ると

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 旅に出ると、どこかで必ず「ずいぶんと遠くへ来たものだなぁ」と思う瞬間がある。    それは聞き慣れない言語を聞いた時だったり、見ただけでは何なのか判別のつかない謎の料理を食べた時だったり、飛行機から降りてすぐ異国の空港の匂いを嗅いだ時だったりと様々なわけだが、これまでで一番美しかったその瞬間は、カナダの大陸横断鉄道を走る列車の中で、地平線から昇る朝日を見た時だった。  バンクーバーからトロントへと向かう列車の中。  旅費の節約の為に、一番安い席だった。  少しだけリクライニングの効くシート。  座っているのと大して変わらない姿勢。    だから、光はまっすぐに私の顔に当たった。  眩しさに目を開けると、遥か遠くに、太陽があった。  平らな地面から半分程顔を出したところだった。  草原。  光を遮るものは何もない。  緑の景色が過ぎていく中で、太陽は、ずっとこちらを向いていた。  それは本当に信じられないくらい美しい瞬間だった。  日本でだって、日の出なんて見たことなかった。  それをこんなところで、初めて見ることになるなんて……。    力強い明るさが昇ってくる。  熱。  火が灯るような感覚。  体の奥底にあった活力が目覚めていく。    その瞬間、思った。 「ずいぶんと遠くへ来たものだなぁ」と。  とてもとても、遠くへ来たのだなぁ、と。  これから、まだまだ遠くへと行くのだなぁ、と。  この時、感動していたからか私は写真を撮るのをすっかり忘れてしまっていた。  旅の思い出に一枚くらいあの光景を撮っておきたかったと後悔する反面、撮らなかったからこそ、あの朝日は今でも鮮明に記憶に残っているのだろうと、撮らなかった事を良しとする自分がいる。  きっとこの記憶はずっと一番のものだろうと思う一方で、それを更新してみたくもあり、私はまた旅に出る。  ちなみにどうでもいい余談だが、私がカナダへ行った目的は未確認生物のオゴポゴを探すというものであったわけなのだが……それはまた別の機会に語るとする。
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