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ーーらなかった。
「うぅわぁっ!!」
カッサはアストにぶつかる寸前に、何かにぶつかり、跳ね返るように地面へと転がったのだった。
「おい、大丈夫か!?」
転がるカッサへと駆け寄るアスト。
「だ、だいじょう……です。」
カッサは何が起こったのか分からなくて口を開け呆然としてアストを見つめた。
「説明してなかったが、俺に人間如きが触れることはできないぞ。」
「えっ! そうなんですか!?」
そう言われるとなんだが試したくなるカッサは人差し指をアストへと近づける。もう少し、あと少しで指が触れそうなところで指が止まった。力を入れども入れども進むことはなく、分厚い空気の層があるかのようにカッサの指を押し返した。
「ほんとだ……す、すごい!」
カッサは「これは面白い」と、興奮混じりで、アストの周りをツンツンと指で押す。すると、アストは「もう、いいだろ」と呆れながら立ち上がった。
触れることが出来なかった指を見つめながらカッサはトウキとケイヒは彼にガンガン触っていたことを思い出す。
「精霊であれば、貴方に触れることができるのですか?」
「そうだな。あいつらは触れることはできる。俺の分身みたいなものだからな。」
「分身?」
「あぁ……」
「そしたら、精霊以外に触れることができる者はいるのですか?」
瞳を大きくして興味津々に質問をするカッサ。
しかしその質問に対して曇ってゆくアストの表情を見ると、大きくなっていた瞳は心配そうな色に変わった。
「……アストさん?」
顔色を伺うように名を呼ぶカッサを、アストは困ったように悲しむように見つめると、ゆっくりと地面に視線を落とし 呟いた。
「俺に触れることができるのは、エルフと“一頭の龍”だけだ。」
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