5.最期の忠告

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 仕事を手伝ったお礼と称して、遊園地へ誘われていたのを思い出した。この誘いはそもそも何だったのだろうか。私だけがチケットを貰い、遊園地へ行くのならわかる。柴山さんやショウさんがそれに付き合う意味は? (柴山さんは遊園地が好き?)  先日遊んだビリヤードの施設からしても、一般庶民と入り交ざるような場所へ、わざわざ出向きたい感じには見えない。ということはやはり、私の好みそうな場所を選んで私を労う為に誘ったのだろうか。  それは前世で血のつながった甥だから? 尚親の来世である私を、親戚の子や姪のような存在に思えて誘っている? それとも……  柴山さんの真意を探って迷走しているうちに、車は自宅近くで既に停車していた。 「OKなら晶にも連絡するけど」  その言葉で、私の頭は一瞬にして冷えた。 「何で……いつもショウさんが出て来るんですか?」 「ん?」 「他の三人には前世の件に関わるなって言っておいて、柴山さんは前世に拘るんですか!?」  気付けば再び柴山さんを責めていた。いたたまれなくなって、素早く車から降りて自宅まで駆けた。自分の部屋まで止まらずに駆け込むと、閉めた部屋の扉にもたれて俯く。 (本当は今日のお礼言わなきゃいけないのに……。柴山さんが私を庇ってしてくれたこと、本当は嬉しかった。なのに全てはショウさんの為だと思ったらつい……)  扉にもたれた私の身体は、ズルズルと引力に引きずられた。 * * * 「すまない……(あきら)」  突然かかってきた電話口で、開口一番柴山の謝罪を聞いた晶は驚いた。 「どうしたんですか? いきなり」 「直緒ちゃんに俺達のこと、全部話したんだ。彼女を救うにはこれしか方法が思いつかなくて……」  そう言って柴山は、自分のオフィスに前世関係者を集めて行った一部始終と、そうせざるを得なくなった経緯を晶に説明した。その声は、いつも余裕たっぷりの柴山には珍しく、ほとほと弱り切っているという感じだった。 「それは仕方ないかもしれない。俺が柴山さんでも同じことをしてたと思う」 「晶は優しいな……それを聞いて安心したよ。実は晶にも怒られるんじゃないかと冷や冷やしてたんだ」  柴山は安堵しながらも、自嘲気味に乾いた笑いを漏した。 「にも?」 「彼女、俺達が正体を黙っていたのを知って怒ってしまったんだ。帰り際にもう一度、明日三人で遊園地へ行けないか誘ってみたんだが、駄目だった。もしかしたらもう、俺達とは会ってくれないかもしれないな……すまない」  仕事の悩みでもこんなに弱り切った声は聞いたことがなかったので、晶からクスッと笑みが零れる。日本を代表する一流企業の次期社長であるいい歳した柴山が、一女子高生の機嫌を損ねたくらいで元気を無くしてしまっているのだから、これが笑えないわけがない。 「誰に謝ってるんだか」 「ん?」 「三人で行きましょう、遊園地。俺から彼女に連絡しときます。あ、但し明日は現地集合ですよ」 「え? あ、おい……」  戸惑う柴山を残し、通話を切った晶はすぐに直緒へと電話を掛けるのだった。
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