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4.羽化と逆鱗
「出家する」と宣言した雲珠姫の顔と、初めて直緒に会った日の帰りに見せた晶の顔が、柴山の中で重なった。自分の前世を彼女に「言わなくていいのか?」と尋ねた時に見せた、晶の苦渋に満ちた表情は、雲珠姫が出家を決断した時とまるでそっくりだった。
(せっかく二人は、来世で出会えたんだからな……)
開け放たれた車窓から入る涼やかな夜風に当たり、晶は助手席で気持ち良さそうにしている。そんな彼の気配を運転席で感じながら柴山は思った。何とかしてやりたい、と。
「次はどこ行こうか?」
唐突に訊かれた晶は、何の事かわからず「え?」っと返す。
「女子高生が行きたい所ってどこだと思う?」
「俺に訊かれても……女じゃないし。それに高校だってもう卒業してるし」
「……って言ったって、去年まではまだ高校生だっただろ? もう十年以上は経ってる私よりはマシだろう」
「う~ん……遊園地とか? ベタに」
「遊園地か」と呟きながら、柴山は学生時代の淡い思い出を振り返った。そう言えば、当時付き合っていた同級生の彼女と遊園地へ出掛けたな、と。アトラクションを待つ間、彼女と手を繋いだ記憶が甦る。その頃の自分と彼女を、晶と直緒に置き換えてみた。なかなか似合いの二人ではないか。
想像しながら柴山は笑みを浮かべた。チクリと刺す胸の痛みに、気づかないふりをしながら――
* * * * *
放課後、部活仲間の麻利絵が部活へと誘ってくれたが、「ゴメン。今日はちょっと家の用事があって」と断った。週明けからそんな調子で私は、連日部活を休んでいる。次々と教室を後にする生徒を見送りながら、深い溜息をついていた。
もちろん『家の用事』とは嘘で、ここのところ浅井先輩と一緒に県立図書館へ行き、尚親の死の真相を調べている。蔵書の多い県立図書館へ連日通っても、目ぼしい成果は挙がっていない。
それはそうだろう、前世の記憶も歴史の知識も、まだ私には乏しいのだから。いくら探しても、尚親の死に関わる大事な事柄を見逃してしまっている可能性だってある。だが尚親の死の真相を掴むまで、先輩は私を自由にする気は無いのだろう。淡雪を苦しめた尚親を赦せる時が来るまでは……。
そんな重い足を引きずりながら、帰り支度を整えた私は今日も、図書館へと向かうのだった。
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