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「あります! これ乗ってみたいと思ってたんですよね」
「良かった。今度の日曜日、晶と三人で一緒に行かない?」
「え……」
(柴山さんと二人きり……なわけ無いか)
「私達とじゃ嫌だったかな?」
「そ、そんなこと無いです。この間は楽しかったし! 是非ご一緒させてください」
少し落胆したのを悟られないように、私はなるべく笑顔を作ってそう答えた。
「良かった。それじゃあ今度の日曜の朝、迎えに行くから準備して待っていて」
そう約束を残し、家まで送り届けてくれた柴山さんは、笑顔で手を振り車を発進させた。私も手を振り返しつつ柴山さんを見送るものの、何かを忘れているような気がしてならない。
「何だっけ? まぁいっか」
その時は気楽に考えていたものの、問題は翌日の放課後すぐに明らかとなった――
* * * * *
「はぁ!? 日曜に用事が出来ただぁ!?」
ここが図書館であることも忘れて、浅井先輩の遠慮の無い声量が館内に響き渡る。周囲の視線が集まる中、先輩は隣に座る私に鋭く蔑んだ目線を送った。
先輩からすれば、前日の検索作業中に突然エスケープされ、その埋め合わせをしている最中に前日取り付けた筈の週末の約束を反故にされたのだから、頭に来るのは当然かもしれない。
「その用事って何だよ?」
「え……」
この雰囲気で遊園地へ行くなどと言えるわけがない。「それはプライベートな事なので……」と誤魔化そうとしたが、先輩には無駄だった。作業中の本をパタリと閉じた先輩は、私の顎を掴み目線が合うよう乱暴に持ち上げると、顔をこれでもかと近づける。
「お前さ、舐めてんの?」
「ち、違っ……」
「いい加減にしろよ? こっちは未だに前世の記憶で苦しんでるってのに……お前ばっかり現世を謳歌しやがって。お前の前世が原因だって自覚あんのかよ? あぁ!?」
先輩の凄みに、逃れるのも忘れて萎縮する。体が小刻みに震え、ただただ先輩を見つめるしかなかった。
ただならぬ私達の様子に、注目していた周囲の何人かが止めに入ろうとした気配を察知したのか、先輩は「ちっ!」と悪態をついて、掴んでいた私の顎をゴミでも捨てるかのように手放す。
そして「今日は解散な」と言い捨てると、結局その日は検索作業はせずにそのまま帰宅することとなった。
図書館から出る際、先輩は、
「前世の記憶が甦った以上、前世からは逃れられない」
と、私に言い聞かせるでもなく呟いて、それ以上はお互い何も喋らずに帰路へと着いた。
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