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(前世からは逃れられない……)
暫く前世の夢を見ていなかったせいか、すっかり抜け落ちてしまっていたような気がした。尚親の人生の過酷さを。
このままずっと前世の記憶を夢で見ないという保証は、どこにも無いのだ。一見八つ当たりのようにも思える先輩の怒りも、決して私にとって無関係ではなかった。
先輩は私よりも先に前世の夢を見、長く苦しんでいるという、寧ろ私にとってはありがたい先人なのだ。
(それなのに私、全然ちゃんと向き合って無かった……)
ショウさんが占いで言われた、『前世と正確に向き合う必要がある』というアドバイスを思い出す。
「罰が当たったのかな……」
先輩の検索作業に付き合うことで、前世と向き合っている気になっていただけだったのかもしれない。それだけでは何の解決にもならないのに……。
そう思い直した私は、帰宅後すぐにスマホを取り出し、電話をかけた。
「もしもし?」
「あ、柴山さん……突然すみません。昨日の今日で」
「どうしたのかな? 何だか元気無いみたいだけど」
「日曜日の遊園地ですが……私、やっぱり行けません」
「何だ、その話か。都合が悪ければ別の日にしたっていいんだよ?」
「でも私……」
そこまで言って、どう説明していいのかわからず押し黙ってしまった。すると何かを察したのか柴山さんは、
「直緒ちゃん、今家?」
「え? あ、はい。そうですが……」
「三十分くらい待ってて貰える? すぐに迎えに行くから」
「はい……え? えっ!?」
気づいた時には既に柴山さんとの通話は切れていた。日曜の約束を断るだけのつもりで電話をかけたのに、まさか柴山さんが家にまで迎えにくるとは……。
しかし、そう言えば以前にもこんな事があったなと思い出し、もうすぐ柴山さんに会えるのをどこかで期待している自分にも気づく。そんな気持ちを悟られないよう、気張らない程度の私服に着替えて、私は柴山さんの車が到着するのを待った。
車に乗り込むと何も言わずに発進させた柴山さんの車は、彼の会社近くにある臨海公園に到着した。
既に日は暮れ、夜の公園は人も疎らだったが、よく見ると居るのはカップルばかりで、急に心拍数が上昇する。そんな様子を知ってか知らずか、海が臨めるベンチに腰を下ろして、柴山さんは相変わらずの優しい声音で語りかけた。
「何があったのか、訊いてもいいかな? 直緒ちゃんが遊園地に行けなくなった理由。今日何かあったんだよね?」
(それを直接訊く為に、わざわざ会いに来てくれたんだ……)
そう思った途端、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
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