4.羽化と逆鱗

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「罰が、当たったんです。私一人浮かれてて。ショウさんは占いで私に『前世と正確に向き合う必要がある』って忠告してくれたのに……」 「罰?」  ポツリポツリと、今日の先輩とのやりとりを柴山さんに話した。それを黙って聞いていた柴山さんは、全てを話し終える頃には私の頭を優しく撫でていた。 「遊園地には気晴らしさせるつもりで誘ったんだけど、かえって直緒ちゃんを追い詰めちゃったね……ごめん」 「そんな! 柴山さんが謝ることなんか……」  謝罪に驚いて咄嗟に両手を振ったが、彼は自分の責任だと言わんばかりの瞳で見つめていた。  元々柴山さんとは、ショウさんが私を元気づける為に会わせてくれただけの間柄で、私の前世問題とは無関係なはずだ。なのに何故、こんなにも自分の事のように心配してくれるのだろうか。 「どうして……こんなによくしてくれるんですか?」  気が付けばつい口から零れ出ていた。ずっと高鳴ったままの鼓動に催促されたのかもしれない。柴山さんを見つめ返す私の瞳には多分、ある種の期待が込められていたのだと思う。  そんな私に気付いたのか、柴山さんはハッとしたようだった。 「え、あぁ、うん。私も前世の記憶を思い出したばかりの頃は、戸惑いもしたし悩みもしたからね……」  咄嗟に視線を逸らせて、柴山さんは何かを誤魔化したように見えた。 * (いけない子だ。ついうっかりとんでもない事を口走りそうになったぞ……)  直緒に深入りし過ぎてしまっていたことに、柴山は今更ながら気づかされていた。  しかしもう、外野を決め込んでいるわけにはいかないところまで関わってしまったと、観念し始めてもいる。    とりあえず、前世が奥寺から来た尚親の正室“淡雪”だという男子高校生の『浅井響介』には、お灸を据えねば気が済まない。  再び向き直るとそこには、咄嗟の嘘で萎れてしまった花のように肩を落とす直緒の姿があった。 「今度の土曜日、その浅井先輩に会わせてくれないかな? 悪いようにはしないから」  その言葉にキョトンとした瞳を向けた彼女を見ながら、柴山は静かに覚悟を決めるのだった。
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