5.最期の忠告

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 土曜日。私は浅井先輩を説得して、上地谷へ行くのをキャンセルし、一緒に柴山ビルまで来ていた。 「ここまで来てつまんねぇことだったら、本当覚えてろよ?」  まだ先輩は私を許してはいない。柴山さんに頼まれて、先輩の他にも後輩の三沢君や会社員の倉下さんを呼び出し、この柴山ビル前で合流していた。 「初めまして皆さん。よく来てくれました」  玄関前で私達を出迎えた柴山さんは、休日で人気(ひとけ)の少ない柴山ビルに招き入れると、五十階フロアにある自分の仕事場へと先導した。柴山さんの仕事部屋だという”取締役員室”に入ると、先輩と三沢君に名刺を配り、倉下さんとは互いに名刺交換をして、私達に高級そうな応接セットのソファへ座るよう促す。 「そこにも書いてありますが、私はこの柴山電機で取締役兼事業部長をやっている、柴山悠貴と言います。今日は皆さんに見せたい物があり、井上さんの力を借りて皆さんをお呼びしました」  いつも仕事ではこんな感じで社員に挨拶をしているのか、柴山さんは三人に向かって流暢に説明をし始めた。上に立つ者の風格なのか、そんな彼の姿に改めて見惚れてしまう。  逆に三人は初めて私が柴山さんに会った時と同様、一流企業の高層ビルや彼の肩書に驚いているのか、それなりに恐縮しているような顔つきだった。 「すみません……実は僕、まだ全然状況が呑み込めていなくて……。今ここに居る事自体もそうなんですが、井上さんと柴山さん以外のお二人が何者なのかもよくわからなくて……」 「それは俺だってそうだ。こいつが同じ学校の後輩だっていうのは知ってるが、あんた一体何者なんだ?」  先輩は三沢君を指しながらそう言うので、倉下さんは先輩と三沢君にも自分の名刺を配った。 「ソフトウェア開発会社の……営業さんッスかね? 倉下さんは」 「そうです。それで君たちは、井上さんと同じ学校の先輩と……後輩?」  私達三人は頷いた。しかし、肩書がわかったところでまだ、先輩は全く納得していない。 「それでこの柴山さんと……倉下だっけ? は、直緒とどういう関係なんだよ?」  少し苛ついた調子で私に訊く。柴山さん同様、倉下さんも年上なのは変わらないのに、どういう訳か先輩は倉下さんだけを呼び捨てにした。何と答えればいいのか躊躇していると、柴山さんが助け舟を出す。 「ここに集まって貰った皆さんには共通点があります。皆さん、『上地尚親』という名前の武将をご存知ですね?」  三人はハッとすると同時に、ゆっくりと私の方を振り返った。
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