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「私は上地谷にも行きました。そこには『上地郷土博物館』があり、上地家統治の歴史が紹介されていますが、そこで展示されている家系図では、この『上地尚龍』という人物で上地家が“滅亡”とされています」
「「「「滅亡!?」」」」
「ええ。上地家は今川家に取り潰されたんです。……が、ここを見てください」
再びプロジェクターの家系図に目線を戻すと、ポインタが『尚龍』の下の『尚政』という名前を指している。
「この『尚政』という人物が、徳川家康に家来として拾われました。そして、尚則さんの代まで上地家の血が繋がったのです」
「え?」という驚きの声が浅井先輩や倉下さんから沸き起こる。あまりの衝撃的な事実に思考が停止していたけれど、さっきから柴山さんはやけに詳し過ぎる。
「ちょ……ちょっと待ってください。尚則さんという方はご先祖についてあまり詳しく無かったんですよね? その話はどこから……」
「そうだぜ。そもそもこの上地尚則だっけ? こいつにはどうやって会えたんだ? 愛知に住んでるって言ってたよな……俺達の前世の記憶と愛知は結びつかないよな?」
倉下さんと先輩から口々に質問が飛び交った。そして三沢君は、何が起こっているのかわからないといった感じで二人を交互に見比べている。
プロジェクターが起動した辺りから、私も脳内でパニックを起こしていた。確かに柴山さんには、ショウさんを介して三人との出会いや前世の事について相談をしていたが――ここまでの情報をそんなに早く集められるものなのだろうか。
「『興信所』を使って調べた――と言うだけではもう、皆さんにはご納得頂けないかもしれませんね……ここを見て貰えますか」
そう言われて、プロジェクターのポインタの位置を探した。家系図の尚親の名前の直前にある、『尚満』という名前を指している。
「これが私の前世です。私は上地尚親の父親『尚盛』の実弟、つまり尚親の叔父である『上地尚満』の前世の記憶を持っています」
「え!?」
驚愕のあまり、思わず私はその場に立ち上がった。
「黙っていてすまない」
「それじゃあ、ショウさんは……」
「あぁ。彼の前世は尚満の娘の『雲珠姫』。この家系図の中の名前で言えば、『上地尚龍』という人物に当たる」
「ええっ!?」と再び驚きの声が上がった。当主が女性だったからか、それともまだ共通の前世の記憶を持つ者が他にもう一人いたという事実に驚いたのか……。とにかく柴山さんを除く四人の誰もが、今明らかにされた情報を脳内で整理するのに精一杯、という感じだった。
「ここまでお話した情報は、私の前世である尚満の記憶と、前世で私の娘だった記憶を持つ友人の協力、それから私の財力で今までにかき集めたものです。私がこれらの情報を集めたのも、一重に前世での無念を思い出したからですが、これ以上の過去を探すのは、私の力でも膨大な時間をかけなければ無理だと感じました」
そこで言葉を切ると、柴山さんは私以外の三人の顔をゆっくりと見回した。
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