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「前世の事実を探したい気持ちは大いに理解出来ます。実際私も前世の影響から、これだけの事実を探し出したのですから。ですが、ここからは私の一方的なお願いになりますが……ここでの情報を限りに今後一切、前世の件で井上さんに関わるのをやめて頂きたい。もし彼女を困らせるような事があれば、次は私が相手になりますのでその旨ご承知置きください」
時間にしたら一時間も経過していないのに、感覚的には柴山さんのオフィスで丸一日を過ごしたような疲労感が私を襲っていた。
柴山さんが啖呵を切った後、言葉少なにその場は解散となり、私と柴山さん以外の三人は、倉下さんの運転する車で帰宅した。そして私は今、柴山さんの車で自宅へと送られている。
「何で……早く教えてくれなかったんですか?」
助手席で私はそうぽつりと漏らした。
「相談された時は、これ以上君を前世の事で苦しめたく無かったからだよ」
初めて柴山さんと出会った時、私は三人と立て続けに出会ったせいで、前世に対して困惑していた。そんな私に対して、更なる頭痛の種になりたくなかったのだと、柴山さんは言う。
「それに晶からも口止めされていたしね。私も晶も、同じ気持ちだったんだ」
柴山さんとショウさんが気遣ってくれていたのは、自分でもわかっている。わかってはいても……
「それでも、早く教えて欲しかった」
そう言って私は、視界から柴山さんを外して車窓を眺めた。こんなことを言っても柴山さんを困らせるだけだとわかってはいるのに、自分を止められない。
それは多分、私に対する今までの柴山さんの行動が、全て前世の関係性からきていたのかと思うと酷く胸が軋んだからだった。
もしかしたら柴山さんも、私に特別な感情を抱いているのでは……と、少しでも期待してしまっていた私の心は、完全に裏切られてしまった。私にとっては前世を隠されていた事よりも、柴山さんが自分をどう見ていたのかの方が遥かに重要だったのだ。
そんな私の責めに対して何の答えもないまま、車中は暫く無言が続く。車窓から見える景色がよく知る地域へと差し掛かった。自宅はもうすぐだ。
「そうだ。キャンセルしていた遊園地、明日行かないかい?」
「え……」
「前世の件はこれで一段落したし、もう行けるんじゃないかと思ったんだけど。ダメかな?」
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