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2.三人の微妙な関係
柴山さんの視線を感じて、不意に視線が交わる。するといつものようににっこり微笑んで、柴山さんはカウンターに向き直った。
「柴山様、準備が整いましたのでこちらのキーをお持ちください」
受付の男性はカードキーを手渡すとインカムで何やら指示を出し、別の従業員が現れ、「ご案内します」と言って建物内を先導し始めた。小走りで柴山さんに追いついて、従業員に聞こえないようこっそりと「一体ここはどこなんですか?」訊ねる。
「夕飯食べに行こうか」と言われたので、てっきりレストランのような飲食店へ連れて行かれるのかと思っていた。しかし辿り着いたのは、外装からは何のお店なのか想像もつかないようなモノクロのビルだったのだ。
「会員制のアミューズメント施設……って言えばわかるかな」
「アミューズメント施設? 何があるんですか?」
「いろいろあるよ」
スポーツ施設ならトレーニングジム・プール・スカッシュ・ボルダリング、文化施設なら図書室・インターネット設備・シアター室、その他はゲームセンター・ボーリング場・ダーツ・ビリヤード・カラオケ……と、とにかく何でもあるという。
「こんなところがあるんだ……」
「あぁ。誰にでも利用できるわけじゃないけどね」
会員制――というところがミソだ。この会員というのは企業単位で登録していて、企業が福利厚生としてこの施設に会員料を払うことで成り立っている。つまり、登録されている企業の者しか利用出来ない――ということだ。
しかし実際は、登録している企業に所属している者なら誰でも利用しているというわけではない。利用する資格があるというだけだ。利用時にはまた別途、利用料金を支払わなくてはならない。それが巷に溢れている同じような施設の料金とはかなり金額が違うので、庶民がこの施設を利用する事は殆ど無いのだ。
(VIPの遊び場……)
建物の内装や従業員の態度、そして利用する客や建物全体の雰囲気から、そう表現するのが妥当だと感じた。やはりある程度地位のある人達は、庶民と遊び場を同じく出来ないものなのかもしれない。
乗り込んだ上品なエレベーターは、ホテルのように扉が並ぶフロアに辿り着いていた。その内の一つの扉を案内人が開けると、そこにはスイートルームと思われるような豪奢な空間が広がり、中央にはビリヤード台が置かれていた。
二人が部屋に入るのを見届けた従業員は、「それではごゆっくり」と言って静かに扉を閉め、退室する。
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