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(た、助かった……)
柴山さんの優しい声が至近距離から聞こえ、暴れ回りそうなのを必死に抑えていた心臓が、口から飛び出してしまうのではないかと思った。ソファーで通話している柴山さんを見ながら、まだ激しい自分の鼓動を掌で抑える。
よく考えてみたら、知らぬ間にホイホイと彼に付いてきて、こんな個室で二人きりだ。個室と言ってもあまりに部屋が広く、調度や内装も上品で豪華なので、今の今まで二人きりという自覚は無かったのだが。
それに柴山さんが大人だからか、とても紳士的で妙に安心してしまうところも問題なのだ。近寄られればこんなに心臓が暴れ出してしまうのに、心のどこかで家族に抱くような安心感を感じるのは何故なのだろう。
通話を終えた柴山さんは私の視線に気づいて、「ごめんね。それじゃあ早速ゲームしながらルールを教えようか」と微笑んだ。この微笑みも、変に警戒させない要因の一つに違いない。
「じゃあとりあえず、一番ポピュラーなナインボールをやってみよう」
簡単にルールを説明しながら、三角形型の木の枠を使って9つの玉をビリヤード台の中央へひし形状に並べていく。その手慣れた手つきに、ついうっとりと見惚れてしまう。
女子高生の自分にとって、歳の離れた柴山さんはあまりにも大人の魅力に溢れているのだ。それが住む世界の違う人であれば、尚更なのかもしれない。
(やっぱり子供としてしか見られてないのかな……)
一回りも歳が違うのだから当たり前なのかもしれないが、それが自分に女性としての魅力が全く無いと突き付けられているようでもあり、何だか少し落ち込んでしまう。
そんな時、部屋の扉をノックする音がし、「お……来たな」と呟いた柴山さんが出迎えるとそこには、ショウさんが立っていた。
「ショウさん!?」
「な……直緒さん?」
私を見つけたショウさんは、目を見開いて立ち尽くしている。そしてショウさんはその瞳のまま、柴山さんと私を交互に見つめて、何も発さずに口をパクパクと動かした。
「晶、よく来てくれたね。せっかくだから三人で遊ぼうと思って」
「……」
どうやらショウさんは呼ばれてここへ来たようだが、私が居る事までは聞かされていなかったらしい。戸惑いを隠せないショウさんの両肩を後ろから押すようにして、柴山さんは彼をソファに座らせた。
「どうして直緒さんがここに?」
「え? あぁ……」
「私が連絡したんです、柴山さんに」
少し驚いた様子のショウさんにすかさず柴山さんは、
「この前晶に頼ったのを気にして、次は私に電話したそうだよ」
と、説明した。それを聞いたショウさんは「そんなこと気にしなくてもいいのに……」と小さな声でぼやく。
聞けばショウさんは、何度か柴山さんにこの施設へ連れてこられたことがあるのたという。それで呼び出されてすぐにここへ来れたのだと説明した。
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