2.三人の微妙な関係

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「やっぱり前世と向き合うのは辛い?」 「辛いというか……難しいというか……」 「晶、今日はその話は無しだ。とりあえず三人で楽しく遊ぼう」  柴山さんはそう言って、キューをショウさんに放った。それを掴んでショウさんは「わかった」と頷き、ソファから立ち上がって「直緒さんはビリヤードわかるの?」と訊く。 「ルールはさっき簡単に教えたけど、プレイしてわからないところがあれば、私と晶で教えればいいだろう」 「了解。何やる?」 「ナインボール。直緒ちゃんもわからなかったら私か晶に何でも訊いて?」 「はい」  私達はそれぞれキューを持ち、ビリヤード台に向かった。初めこそ少しぎこちなかったものの、私の珍プレイに二人が笑ったり、わからないことを二人が優しく教えてくれたりと、ビリヤードの面白さも相まって、気が付けば夢中になって遊んでいた。  途中で注文していた食事が運ばれてきたので、ゲームを中断して夕食をとった。巷に溢れるどのファミリーレストランよりも遥かに美味しい食事に、舌鼓を打つ。柴山さんが食事と言ってここへ連れて来た理由がわかる気がした。  利用客がVIPだからか、施設側としては下手な料理を出せないのかもしれないが、もしかしたらこの二人と一緒に食べること自体が、美味しい調味料になっているのかもしれないとも思い始めていた。  そうこうしている内に、楽しい時間はあっという間に過ぎていって…… 「あ。柴山さん、もう十一時近いよ。直緒さん家に帰さないと」 「あぁ、もうそんな時間か。直緒ちゃんゴメン、気づかなくて」 「あ、いえ。私も凄く楽しくて時間忘れてました」  私の言葉に柴山さんとショウさんは、目を合わせて微笑む。 「また三人で遊ぼう。早い時間から会えば今度はゆっくり遊べるし。それじゃ家まで送るよ」  そう言って柴山さんは、車で家の前まで送ってくれた。別れ際、運転席の窓を開けながら、「不安になったらまた連絡しておいで。いつでも付き合うから」と言って私の頭を撫でてくれた。  何だか恥ずかしくなってしまった私は、「今日はありがとうございました」とお辞儀をすると、逃げるように家の中へ入るのだった。 * * *  直緒を見送り、車を発進させると、それまで助手席で黙って一部始終を見ていた晶が口を開く。 「俺を混ぜる必要はあったんですかね?」 「ん? 何言い出すんだいきなり」 「いえ、何となく柴山さんが……何か企んでいそうだったので」 「考えすぎだよ。それに俺が女子高生と二人きりで居るところを誰かに見られるのは、何かと不都合があるんだ。頼むよ、晶」  そう言って柴山はウインクしてみせた。それを見てゲンナリした晶は、「まぁ、いいですけど」と言い、助手席のパワーウィンドウを開けるのだった。
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