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おばあちゃん、頑張る
夏美さんがガンで亡くなり、
親戚が最後の別離に来てくれました。
そして、永遠のさよならになる
告別式が始まりました。
息子は、涙を見せまいと
こらえていました。
私だって、同じです。
子供の成長を見るのを
楽しみにしていた夏美さんが、
天国に行くなんて信じられないことです。
生きていたら、ありさの入学式に出て、
ランドセル姿を見たかったでしょう。
夏美さん、子供たちは
私が守りますからね。
だから、空の上から
子供たちを見守ってちょうだいね。
時は、1月の寒い季節でした。
この日は、私たちにとって
悲しい日になりました。
「かわいそうにね」
「これから、どうするんだろうね」
偽善がましい慰めはやめてちょうだい。
何もわかっていないのに…。
お願いだから、
今日は静かにしてちょうだい。
夏美さんの気持ちを思うと、
私は涙が止まりませんでした。
そして、告別式が終わり、
夏美さんの遺骨は
私の家にある仏壇に安置されました。
初七日の供養をしてから、
遺骨を尾崎家のご先祖様が眠る墓地に、
納めることになりました。
「ひとみ、ありさ、いいかい。
朝起きたら、ここに来て
ママにごあいさつをして出かけるんだよ。
ここに、ママがいるからね」
「おばあちゃん、
ママはおうちにいるの?」
「そうだよ、ママは
神様に守られているからね。
形は変わってもママは、
あなたたちのそばにいるからね」
それから、初七日を終えて夏美さんの
遺骨は、尾崎家のご先祖様の眠る
お墓に納骨されました。
それから2カ月が過ぎ、
ひとみとありさは毎朝お仏壇に
手を合わせて、夏美さんに
行ってきますのごあいさつを言って
出かけるのが日常になりました。
その間、ひとみは寂しい顔を見せずに、
毎日学校に行きました。
ありさは、幼稚園を卒園して、
4月から小学校に入学になりました。
正也が仕事から帰るまで、
孫たちを預かってから2カ月、
私は孫たちのために料理本を見て、
孫たちが喜ぶ料理を頑張って覚えました。
そのことで、孫たちに寂しい思いを
させないようにしたかったのです。
料理が上手だった夏美さんは、
いつも手料理を振る舞ってくれました。
私は、主人を亡くしてから
一人でいたせいもあって、
「お義母さん、
家でご飯を食べませんか?」
と声をかけてくれたのも
夏美さんでした。
それからは、正也一家と
一緒に食事をするようになりました。
夏美さんは、母の日になると
いつも、カーネーションを
私にプレゼントしてくれました。
「気を遣わなくていいのよ」
と初めは言ったのですが、
「私のささやかな気持ちです」
とにこやかに答えていました。
亡くなったというのに、
夏美さんが生きているように感じます。
だけど、いつまでも
悲しんではいられません。
孫たちのためにも、
私が頑張ります。
夏美さんの分まで、
孫たちが大人になるまで
見守ってやらねばと思っています。
夏美さん、見ていてちょうだい。
孫たちは、私が立派に
育てていきますからね。
「おばあちゃん、ただいま」
「おかえり」
「今度、授業参観だよ。見に来てね」
「わかったわ。おやつがあるから、
手を洗ってきなさい」
「はーい」
「ありさも、手を洗ってきなさい。
お姉ちゃんと一緒に食べるって
待っていたのよ」
「そうなんだ。ありさ、一緒に行こう」
「うん」
姉妹の仲は良く、
微笑ましいかぎりです。
「いただきます」
今日のおやつは、
ホットケーキをつくりました。
二人とも、喜んで食べていました。
それから夕方になって、
正也が帰ってくる時間になりました。
「ただいま」
「パパ、お帰りなさい」
「二人とも、いい子にしていたか?」
「おばあちゃんが、
ホットケーキをつくってくれたの。
おいしかったよ」
「そうか、それはよかったな」
「正也、お帰り。
ご飯ができているから、
食べていきなさい」
「母さん、ありがとう。
いつも、すまないな」
「こういう時は、お互いさまだよ。
家族で助け合っていかないと
いけないからね」
私たちの家族のなかには、
夏美さんは生きています。
夏美さんは、
私たちの家族ですから。
いつも、優しくしてくれてありがとう。
孫たちも、あなたの気持ちを
受け継いで、優しい子供たちに
なるように、私が育てていきますからね。
どうか、空の上で
見守っていてちょうだいね。
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