メモリーフラッシュ24時

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 ある日、とある国の軍事研究施設内において、敵国のスパイである男が捕まった。  この男は非常に冷徹で優秀な諜報員で、今までに幾多もの機密情報をこの国から持ち出していた。その度に防衛局の最暗部から、裏の世界で活躍するような腕利きの局員たちが捕獲に派遣されたが、誰一人として歯が立った者はいなかった。  そんな男が、今夜、とうとう捕まったのである。捕まえたのは、先日防衛局の公安課で若くして昇進し、軍事研究施設の警備部長に任命された女だった。 「お加減はいかがですか、ミスター・ゼロ」  殺風景な拘置部屋に、女の冷たい声が響く。女の目の前で、拘束具に縛られ身動きも取れずにいる三十越えの男こそが、くだんの凄腕スパイ───コードネーム、「ミスター・ゼロ」である。  ゼロはふん、と鼻を鳴らすとせせら笑うようにして言った。 「お陰さまで、とても良いよ。この手錠さえなけりゃ、さらに最高だがね」  ジャラジャラと耳障りな音を立て、ゼロが手首に巻きつけられた頑丈な手枷を揺する。手錠さえなければ、ということはつまり、手錠を外すことにさえ成功すればそれ以外の拘束具などゼロにとっては取るに足りないものだということだ。  遠回しに自国の拘束技術を揶揄され、女はわずかに眉を歪めた。だが、その様子をゼロが面白そうに見ていることに気付き、女はもとの鉄仮面に戻った。 「我々の尋問に答える気は、なさそうですね」
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