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―2―
「ご主人様起きてください、朝ですよー会社に遅刻しますよー」
ふにふにと布団越しに按摩をされている気がする。ふにふにをしている正体が布団に乗っかって今度は俺の頬をふにふにする。ぽかぽかのぷにぷにした幼い手。枕元の目覚まし時計を確認すると今日は9月12日の7時丁度……
「んぅぅ……しらたき……」
「あ、やっとご主人様起きたー、おはようございますっ!」
寝ぼけた視界に幼い少女が無垢な笑顔で嬉しそうにしている。
「とりあえず降りてくれ」
「ごめんなさいご主人様、でもご主人様乗っかられるの好きだよね?」
「それは用事が無い時だけ、会社があるの分かってるよね」
「分かってますー、今日もご主人様は規則正しく遅刻せず会社に到着するでしょー」
しらたきが擦り寄るように甘えてくる。洗面所に移動して顔を洗い歯を磨き、クローゼットからスーツを取り出しさっと身支度を済ませたら丁度トーストが焼き上がっている、そこに今から焼く半熟目玉焼きを乗せてラピュタパンの完成。椅子に座りゆっくりと食べ始めた。
しらたきの事を彼女に伝えたくてラインを飛ばしてみたけど既読すらされない、こんなに人懐っこい女の子を見せたら喜びそうなんだけど……
「ご主人様浮かない顔してるね、既読スルー?」
「元カノに君を見せたくて連絡したんだけど返事がこなくてね、どうしたものか」
「会ってみればいいと思うよ」
きゅるんとした真ん丸おめめでさらっと言ってのける。幸い今日は金曜日で飲み会を断れば会社終わりに地元まで向かえそうだ。今時ビジネスホテルが開いてないことは無いだろう。
「ご馳走様、しらたき行くよ」
「はぁーいご主人様ー」
コーヒーをグイっと飲み干し、しらたきをスマホに戻して会社へ向かう。いつも通りのオフィス、いつも通りの会議、そしてあっという間にいつも通りの定時。
「先輩お疲れ様です」
「おう、今週も残業無し達成出来そうだな」
「はい! プロジェクトも順調で何よりです」
社内の休憩室にあるテレビから令和関係のニュースで盛り上がる音声が聞こえる。
「先輩も大事な人と一緒に過ごすんですか?」
「まあ……そんなところだ」
大事な人が俺を覚えているか不安だが定時退社して新幹線に乗り込む。
「ご主人様駅弁買った? 何かな、何かな?」
新幹線に乗り込み、買ってきたシュウマイ弁当を開ける。
「ご主人様シュウマイ弁当好きだね、いつも食べてる」
幼い頃父親の好物でよく買ってきてたシュウマイ弁当、ご飯がぎゅっと詰められていてよく味の染みたタケノコが入ったお弁当は俺にとって特別な存在だった。
「しらたきは元カノに会って何したい?」
「んー、とりあえずご挨拶……」
しらたきはスマホの中で会釈をしてみせた。顔を上げたしらたきの目はちょっと冷たかった。
「何で、会えばいいと思った?」
朝に思った疑問を率直に聞いてみる。
「こうして私とご主人様が話すように、面と向かって話した方が意外と話せるかなって」
「そうか、てっきり遠出する為の口実かと」
「ばれた? えへへー」
頬を赤くさせ嬉しそうに両手で口元を隠し、しらたきはそっと画面に近づく。
「私も、ご主人様と大切な時間を過ごしたいんだよ」
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